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高齢者は本当にキレやすいのか――「怒り」の実態に迫る

「怒り」の仕組みと感情のコントロール(1)「キレる高齢者」の正体

川合伸幸
名古屋大学大学院情報学研究科教授
情報・テキスト
「高齢者はキレやすい」などといわれることがあるが、それは本当なのだろうか。実はメディアの報道では、高齢者の比率が増加していることを無視しており、データを見てみると人口比では高齢者が暴力関係で検挙される比率はそれほど高くないことが分かる。しかし、ちょっとした場面で高齢者が自分を抑制できなくなる傾向があることは事実で、そうした変化には前頭葉の機能の低下が関連している。(全5話中第1話)
時間:05:47
収録日:2020/11/10
追加日:2021/02/24
≪全文≫

●生物学では「ヒトほど凶暴な生物はいない」と考えられている


 こんにちは、名古屋大学の川合伸幸です。怒りの仕組みとそのコントロールの仕方について、5回にわたってお話しします。第1回目は、「キレる高齢者は本当に増えているのか」というテーマでお話しします。

 10年ほど前から「キレる高齢者」という言葉を見聞きするようになりました。わたしが最初に意識したのは2011年のことです。その頃、私は、『ヒトの本性 なぜ殺し、なぜ助け合うのか』 (講談社現代新書)という本を執筆しており、人間の暴力や攻撃性について調べていました。

 あまり知られていませんが、ヒト以外の動物が意図的に同種の仲間を殺すことは、ほとんどありません。動物が意図的に仲間を殺している証拠が見つかったのは50年ほど前のことです。ヒトは、他の動物に見られないほど、多くの仲間を殺してきました。「獰猛」という言葉は動物に用いられますが、生物学では、ヒトほど凶暴な生物はいないと考えられています。

 暴力を振るう、あるいは殺人に至るのは、男性ホルモンの濃度がピークに達する、二十代でもっとも多い、という結果が世界中で得られています。その後、年齢とともに暴力を振るわなくなります。しかし、白書のデータを見ると高齢者の犯罪や暴力事件が増えているのです。まず、年齢ごとの犯罪全体の検挙数を見てみましょう。


●高齢者は本当に暴力を振るいやすいのか


 平成18年以降、検挙された人はどの年齢層でも減少していますが、65歳以上だけが増加しています。平成28年度は、65歳以上検挙者は47,000人で、全体の21パーセントを占めていました。20年前に比べると、3.7倍の数値です。

 もう少し細かく年齢別に見てみると、70歳以上の検挙された人が多いことが分かります。

 犯罪別に見てみると、高齢者の暴行や傷害による検挙数が増加し続けています。このようなデータに基づき、高齢者は辛抱がたらず、すぐに暴力を振るうという論調の報道がなされるようになりました。しかし、実数で比較すると、解釈を誤る危険があります。高齢者の数は年々増加し、若い世代は次第に減少していることを考慮に入れて、人口比を調整したデータを見る必要があります。

 この図は、平成7年から平成27年までの20年間にわたる、各年の人口10万人当たりの一般刑法犯検挙人員を示したものです。こうして見ると、高齢者の検挙率も平成18年をピークに減少していることが分かります。重要なのは、一番高い位置にあるのは20代で、65歳以上の高齢者は一番低いところにある点です。つまり、高齢者人口の増加分を調整すると、高齢者の犯罪が多いわけではないことが分かります。「高齢者がキレやすい」というよくなされる報道は、高齢者が増えた分だけ検挙数も増えていることを調整しないデータに基づくもので、いわば「統計のマジック」なのです。


●「高齢者がキレやすい」のは怒りの抑制ができなくなるため


 とはいえ、人口比で調整したデータでも、高齢者が暴行で検挙される数は増えています。暴行とは、少し頭を叩くとか、傘で頭をつつくとか、暴言を吐くなど、相手を怪我させない程度の暴力行為などが該当します。たしかに電車の駅などでも、駅員を殴る高齢者などを見たことがあります。どうして高齢者は、つい手がでるのでしょうか。

 実は、高齢者は、何かをしようとしたときに、それを抑えることが苦手なのです。やりかかったことを抑えるのは、脳の前頭葉の働きですが、加齢とともにその前頭葉の働きが弱くなります。つまり、脳の構造に変化があってもなくても、加齢に伴い前頭葉の機能が弱くなるのです。前頭葉は、思考・判断・計画・抑制といった、合理的な判断を下す司令塔のような働きをしますが、(加齢に伴い)特にちょっとした記憶や、抑制機能が低下します。抑制機能は、何かしようとしたことにブレーキをかける働きのことをいいます。

 それは暴力に限ったことではありません。例えば、70代半ばの妻の父母と食事に行く約束をすると、30分も早くやってくることがあります。「出かける」ということが頭にあると、その時間まで待てないのです。

 私の母も同様です。あるときに、実家に帰省しているときに、母とアメリカにいる兄の話になりました。アメリカの時間でそろそろ兄が出社する頃だと気づいた母は、私の制止も聞かずにすぐにアメリカの兄の会社に電話をしました。しかし、兄はまだ出社しておらず、電話に出た米国人と母は話しができないので、何も伝えられず、代わりに私が電話をかけた事情を説明す...
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