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セルフコントロール能力は訓練によって鍛えることができる

「怒り」の仕組みと感情のコントロール(4)自制心を鍛える

川合伸幸
名古屋大学大学院情報学研究科教授
概要・テキスト
怒りを鎮めるための抑制機能の働きと関連して注目されているのが「セルフコントロール」だ。これは「自制心」とも言い換えることができるが、将来のより大きな成果のために自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力のことで、幼少期におけるその能力によって大学入試の成績やその後の収入にも関連することが分かっている。ではどうすればそれを鍛えることができるのか。また、そもそも怒りの発生を抑えるためにはどんな方法が効果的なのか。(全5話中第4話)
時間:10:20
収録日:2020/11/10
追加日:2021/03/17
≪全文≫

●幼少期のセルフコントロール能力によって大学入試の成績が予測できる


 今回は、怒りを抑えるその他の方法について説明します。

 怒りを鎮めるのは、抑制機能の働きです。抑制機能と関連して注目されているのが、「セルフコントロール」です。セルフコントロールとは、将来のより大きな成果のために、自己の衝動や感情をコントロールし、目先の欲求を辛抱する能力を指します。「自制心」といい換えることもできるでしょう。

 例えば、腹が立ったときに、相手を罵倒すれば気が済むかもしれません。しかし、そのために相手との関係まで失ってしまうと、大きな損失になることがあります。生活の中では、目先の利益にとらわれず、長期的な利害を考えて行動する必要があります。そのような長期的な利得の計算をするからこそ、理不尽な態度や言葉に腹を立てても我慢するのです。

 この、長期的な利益のために我慢するというセルフコントロールの能力は個人によって異なります。日本ではほとんど注目されていませんが、米国ではセルフコントロールが、非常に重視されています。なぜなら、およそ50年にもおよぶ研究の成果によって、幼少期のセルフコントロール能力によって大学入試の成績が予測できると分かったからです。

 子どものセルフコントロール能力は、「マシュマロテスト」と呼ばれる方法で測定されます。まず、実験者以外には机とイスしか置いていない部屋に、子どもがひとりで入ります。机にはマシュマロが一つ乗ったお皿が置いてあります。実験者は、つぎのようにいって部屋を出て、子どもを一人にします。

 「ちょっと用事があるので、出かけます。そのマシュマロを食べても良いですが、15分間、食べるのを我慢できれば、もう一つマシュマロをあげます。わたしがいないあいだに食べてしまった場合には、二つめはありません」。その後、実験者が部屋を出た後の子どもの行動を観察します。何もすることのない部屋で、お菓子を目の前にして一人で待つのは非常に難しいのです。子どもは我慢するために、さまざまなことをして気を紛らわせます。しかし、4、5歳の子どもであれば、最後まで食べないで我慢できるのは全体の3分の1ほどです。我慢できずに食べてしまった残りの子どもは、マシュマロを食べるまでの時間がこのテストの指標とされます。

 最初の追跡調査は、15年後に行われました。その結果、就学前の...
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