ヒトは共同保育~生物学から考える子育て
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チンパンジーは乱婚、ヒトは夫婦…人間の特殊性と複雑性
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(2)ヒトの子育てと脳の関係
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ヒトと近しい類人猿でも、その配偶システムと子育てシステムは、ヒトとはずいぶん異なっている。チンパンジーは基本的には乱婚で、母親のみの子育てだが、ヒトは基本的には一夫一婦制で、子育ても夫婦で行ない、さらにペア同士だけでなく、皆で集まって社会集団を形成する。ヒトは集団で暮らさなければ効率的に食料を得られず、捕食者などからも身を守れない環境の中で生きてきた。その中で子育ては当然、共同保育が基本となる。その要因として関係があるのは脳の大きさと社会生活の複雑性だという。どういうことなのか。ヒトの子育てと脳の関係、集団のあり方について解説する。(全5話中第2話)
時間:11分16秒
収録日:2025年3月17日
追加日:2025年9月7日
≪全文≫

●ヒトは「共同繁殖」ではなく「共同保育」


 さて、ヒトの場合はどうか。ヒトは配偶システムの点からすると、一夫一妻もあれば、一夫多妻もある。一妻多夫は極めて稀で、これまでにチベットなど、2つの社会でしか報告されていません。なので、ヒトでは一夫一妻のペアはどこにでもあって、そこに財力があると一夫多妻になれるというような状態でしょうか。

 ところが、ヒトの「夫婦(ペア)」が他の動物と違うのは、他の動物では「夫婦(ペア)」がいたら、それらは個別のペアとして存在していて、ペア同士がお互いに競争相手になるところです。

 ところが、ヒト(人間)では夫婦が個別に存在するわけではない。カップルがみんな、さらにカップルでない人も集まって大きな社会集団を作ります。そして、性的関係はカップルかもしれないけれど、(集団内の)女の人も男の人も性的関係のあるなしにかかわらず、みんなで共同作業をしている。

 このような形は、他の動物にはあまりいません。それは、共同作業をしないと食べ物を得られないし、集団で暮らさないと捕食者から身を守れない。食物を得られないのはもちろんとして、火を焚くこともあります。そうすると、家に薪ストーブのある方はお分かりかと思いますが、火を保っていくのは付きっきりでないといけない大変な仕事です。火を保ちながら他の生計活動をしようとすると、絶対に一人ではできません。

 それは子育て(システム)も同じです。ヒトにはカップル(ペア)というものがあって、性関係は閉じている。それぞれの子どもはいるのだけれど、いろいろな人間が一緒に住んで、全員で共同作業をしないと生きられない。こういう動物なので、性的関係と子どもを育てることについては切り離そうということで、(ここでは)「共同繁殖」ではなく、子どもを育てる「共同保育」としたいと思います。


●ヒトと全く違う類人猿の子育て


 私は、若い頃は野生のニホンザルを研究したり、タンザニアの野生チンパンジーの研究をしたりしてきました。そのときに、自分がヒト(人間)であるためにヒトの子育てを基準に考えてサルやチンパンジーを見たため、たいへん驚いたことがあります。

 ヒトに近い霊長類は(哺乳類全体がそうですが)、母親の...

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