ヒトは共同保育~生物学から考える子育て
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
チンパンジーは乱婚、ヒトは夫婦…人間の特殊性と複雑性
ヒトは共同保育~生物学から考える子育て(2)ヒトの子育てと脳の関係
哲学と生き方
長谷川眞理子(総合研究大学院大学名誉教授/日本芸術文化振興会理事長)
ヒトと近しい類人猿でも、その配偶システムと子育てシステムは、ヒトとはずいぶん異なっている。チンパンジーは基本的には乱婚で、母親のみの子育てだが、ヒトは基本的には一夫一婦制で、子育ても夫婦で行ない、さらにペア同士だけでなく、皆で集まって社会集団を形成する。ヒトは集団で暮らさなければ効率的に食料を得られず、捕食者などからも身を守れない環境の中で生きてきた。その中で子育ては当然、共同保育が基本となる。その要因として関係があるのは脳の大きさと社会生活の複雑性だという。どういうことなのか。ヒトの子育てと脳の関係、集団のあり方について解説する。(全5話中第2話)
時間:11分16秒
収録日:2025年3月17日
追加日:2025年9月7日
≪全文≫

●ヒトは「共同繁殖」ではなく「共同保育」


 さて、ヒトの場合はどうか。ヒトは配偶システムの点からすると、一夫一妻もあれば、一夫多妻もある。一妻多夫は極めて稀で、これまでにチベットなど、2つの社会でしか報告されていません。なので、ヒトでは一夫一妻のペアはどこにでもあって、そこに財力があると一夫多妻になれるというような状態でしょうか。

 ところが、ヒトの「夫婦(ペア)」が他の動物と違うのは、他の動物では「夫婦(ペア)」がいたら、それらは個別のペアとして存在していて、ペア同士がお互いに競争相手になるところです。

 ところが、ヒト(人間)では夫婦が個別に存在するわけではない。カップルがみんな、さらにカップルでない人も集まって大きな社会集団を作ります。そして、性的関係はカップルかもしれないけれど、(集団内の)女の人も男の人も性的関係のあるなしにかかわらず、みんなで共同作業をしている。

 このような形は、他の動物にはあまりいません。それは、共同作業をしないと食べ物を得られないし、集団で暮らさないと捕食者から身を守れない。食物を得られないのはもちろんとして、火を焚くこともあります。そうすると、家に薪ストーブのある方はお分かりかと思いますが、火を保っていくのは付きっきりでないといけない大変な仕事です。火を保ちながら他の生計活動をしようとすると、絶対に一人ではできません。

 それは子育て(システム)も同じです。ヒトにはカップル(ペア)というものがあって、性関係は閉じている。それぞれの子どもはいるのだけれど、いろいろな人間が一緒に住んで、全員で共同作業をしないと生きられない。こういう動物なので、性的関係と子どもを育てることについては切り離そうということで、(ここでは)「共同繁殖」ではなく、子どもを育てる「共同保育」としたいと思います。


●ヒトと全く違う類人猿の子育て


 私は、若い頃は野生のニホンザルを研究したり、タンザニアの野生チンパンジーの研究をしたりしてきました。そのときに、自分がヒト(人間)であるためにヒトの子育てを基準に考えてサルやチンパンジーを見たため、たいへん驚いたことがあります。

 ヒトに近い霊長類は(哺乳類全体がそうですが)、母親の...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「哲学と生き方」でまず見るべき講義シリーズ
哲学から考える日本の課題~正しさとは何か(1)言葉の正しさとは
「正しい言葉とは何か」とは、古来議論されているテーマ
中島隆博
「心から幸せになるためのメカニズム」を学ぶ(1)心理学研究と日本の幸福度
実は今、「幸せにも気をつける」べき時代になっている
前野隆司
「50歳からの勉強法」を学ぶ(1)大人の学びの心得三箇条
大人の学び・3つの心得=自由、世間が教科書、孤独を覚悟
童門冬二
西洋哲学史の10人~哲学入門(1)ソクラテス 最初の哲学者
ソクラテス:「フィロソフィア」の意味を問う最初の哲学者
貫成人
禅とは何か~禅と仏教の心(1)アメリカの禅と日本の禅
自発性を重んじる――藤田一照師が禅と仏教の心を説く
藤田一照
死と宗教~教養としての「死の講義」(1)「自分が死ぬ」ということ
世界の宗教は死をどう考えるか…科学では死はわからない
橋爪大三郎

人気の講義ランキングTOP10
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(2)日本人が知らない世界エンタメ市場
実は「コンテンツ世界収益ベストテン」に日本勢が5つも!
水野道訓
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(1)「プラチナ社会」構想と2050年問題
5つの産業で「資源自給・人財成長・住民出資」国家を実現
小宮山宏
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(7)不動産暴落と企業倒産の内実
不動産暴落、大企業倒産危機…中国経済の苦境の実態とは?
垂秀夫
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
編集部ラジオ2025(24)「理解する」とはどういうこと?
学力喪失と「人間の理解」の謎…今井むつみ先生に聞く
テンミニッツ・アカデミー編集部
おもしろき『法華経』の世界(1)法華経はSFだ!
法華経はSFだ!…心を元気にしてくれる法華経入門
鎌田東二