●定年準備のための第4条:個人事業主と接触する
―― ありがとうございます。次に第4条ですが、「個人事業主と接触する」ということです。ここはどういうことですか。
楠木 先ほど社会とのつながり方という意味では、会社員は会社を通して社会と間接的につながっています。例えば、個人事業主でお金を稼いでいる人については、いろいろなパターンがあり、農業に従事している人、デザイナーさん、大工さん、理容師さん、写真家さん、芸人さんなど、いろいろな人がいます。自分一人で個人事業主としてやっている人は、社会と直接つながって対応(商売)している部分があります。会社員の人は、この商売感覚という部分で学ぶべき点が多いと思っています。
私が取材した事例でいうと、会社員だった当時、芸人さんの取材をしました。芸人さんはやはり隙間があれば、自分の主張をどんどん入れ込んできます。しかし、会社に戻って、社内の会議に出てみると、そこでは自分の存在を隠すかのように(控えめに)発言する人もいます。ということで、社会に直接対峙している人たちから学ぶことはあると思っています。
ではそういう人たちとどういうところで出会うかというと、例えば学生時代の同窓会や地域活動、あるいはPTA活動の場などがあります。そうした場で個人事業主さんがいれば、彼らと話をしながら、彼らがどのように社会と直接つながっているのかを学ぶことは結構意味があると思います。私自身もそうした活動の中で、いろいろ教えてもらったことがあったので、これを条文の一つに挙げさせてもらいました。
―― 例えば、個人事業主の人とお付き合いするにしても、どういう視点を持っているかで、当然見えてくるものが変わってきますね。
楠木 変わってきます。例えば、私が取材を受けたときのカメラマンで、知り合いになった50代の人がいました。そのときに感じたのは、会社の中の50代半ばの人と、同じ50代半ばのそのカメラマン(フリー)の人とでは、元気さや若さが全く違うので、その違いは何なのかということです。
やはり会社の枠組みの中だけにいると、どうしてもその中でロートル(老頭児:中国語で年寄りの意味)だと思ってしまいがちです。しかし長い寿命で考えると、50代半ばのカメラマンやフリーランス、会社の人もそうですが、まだまだこれから時間もたくさんあり、働く時間もありますので、全然ロートルではありません。そのことが、社外の人とやり取りすると感じられます。振り返って自分の身に置き換えてみて、会社員は一体どんな存在なのかを確認することにもなると思っています。
●定年準備のための第5条:相手のニーズに合わせる
―― 次に第5条です。これは定年を考えると非常に身につまされる話かもしれませんが、「相手のニーズに合わせる」ということですね。
楠木 そうですね。会社員であれば、相手のニーズにはもちろん合わせてはいますが、上司や部下、同僚など、ある程度分かっている人たちの中でも、ニーズに合わせているという作業になると思います。
しかし、会社という枠組みから離れたときのことを想定するとどうなのか。当然ながら、不特定の人、またはそこまではいかなくても、会社の中での仲間以外の人たちに、きちんと評価をされなければ、うまくいかないことは明白です。私の事例でいうと、例えば本を書くときに、全然知らない人に評価されないと本は売れません。そのために、どういうことを考えていくのか、どういう書き方にするのか、もう少し具体的だと、タイトルはどうすればいいのかなど、いろいろと考えていきます。今の言葉で、いわゆる「顧客ファースト」といいますが、そういう前提で進めないと、なかなかうまくいかない部分があります。そういったことを自分で動きながら、見つけ出すことが大事ではないかと思っています。そこは、場数を踏むということになるかもしれません、不特定多数の人に対して。
●定年準備のための第6条:自分を持っていく場所を探す
―― ありがとうございます。次に第6条です。「自分を持っていく場所を探す」ということですね。
楠木 そうですね。人によっては転身願望が結構大きいので、そのことを煽るような書籍も比較的多いのですが、実際は自分自身を変えることは大変難しいと思います。自分を変えたいと思っている人は多いのですが、やはり自分自身を変えることは難しいのです。
私も30数年間、生命保険会社にいて、営業の締め切りのときにいつも「なぜできないのか」と言われました。「身も心も入れ替えて、やり直します」と誰もが言うのですが、それで変わった姿を見た試しがありません。つまり、自分を変えることはやはり難しいので、自分を変えずに、この自分自身をどこに持っていったら評価してもらえるのかを考えることのほうが、すごく重要...