テンミニッツTV|有識者による1話10分のオンライン講義
ログイン 会員登録 テンミニッツTVとは
テンミニッツTVは、有識者の生の声を10分間で伝える新しい教養動画メディアです。
すでにご登録済みの方は
このエントリーをはてなブックマークに追加

なぜバブルが起こるのか…行動経済学で読む市場の二面性

ビジネス・エコノミクス(5)行動経済学の活用<後編>

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
行動経済学の知見を踏まえると、株式市場の理解も深めることができる。人間は必ずしも合理的ではないため、株式市場も効率的に動いているわけではない。合理的でない人間の「癖」を見抜くことで、マーケティングへの応用が可能となる。(全5話中第5話)
時間:11:35
収録日:2021/12/09
追加日:2022/03/17
≪全文≫

●株式市場は必ずしも効率的に動いてはいない


 その上で是非もう一つ申し上げたいのは、株式市場やファイナンスの世界でも、この行動経済学が非常に大きな意味を持っていることです。

 ファイナンス理論では、いわゆる効率市場仮説が非常に重要な意味と影響力を持っています。要するに、株にしても、不動産にしても、そういう取引をする人たちは非常に合理的にいろいろなことを考えて計算しているのです。実際に、企業の収益を計算したり、企業のいろいろな投資行動を吟味したり、あるいはそのための資金の調達のために金利などいろいろなことをみたりしています。それによって、例えば個々の企業の株価はこれくらいが一番理想的であるというのを決めていき、それがマーケットに反映されるのです。それは個々の企業の株価だけではなくて、例えば日経平均や、ニューヨークダウなどの株価全体の推移にも範囲されます。合理的な期待や効率市場仮説の考え方においては、そういう中でマーケットを出し抜くことは不可能であるという議論がされます。

 例えば、今の企業の株価は安すぎるので、今のうちに買っておけば儲かるだろうと考えて株を買う人もたくさんいると思います。しかし、よく考えてみると、もし株が本当に安い、あるいは本来あるべき価格よりも安いことが事実だとしたら、結構みんな気が付くはずです。そうだとすると、それはとっくに株に反映されています。

 具体的な例として、例えばあるメーカーが画期的な技術を開発して、この技術があるとこのメーカーはこれから5年後、10年後にものすごく利益が上がるだろうというニュースが朝に流れたとします。そのニュースを聞いて、すぐにその株を買いに行く人はマーケットを分かっていません。日本中の人がそのニュースを見ているので、もうとっくに株価は上がっています。

 そういう意味では、マーケットを出し抜くのは非常に難しいし、マーケットはだいたい事実を反映した価格になっているのです。

 これは非常に重要な話で、例えば、企業がいろいろな株価や債券を選択して、それを投資信託として売るときに、その選択のためにいろいろな資本を使うことを「アクティブ」というのですが、実はアクティブ投資はあまり意味がないとよく言われます。それはなぜかというと、マーケットの価格自体が非常に大きな流れを読んでいるので、それを出し抜いて買えるはずがないからです。そのため、だんだんパッシブ投資のほうに世の中がシフトしていきます。パッシブ投資とは何かというと、できるだけ多くの株を機械的に組み込んでそれに投資することです。これは分散投資という意味では非常に意味があります。

 学問やビジネススクールにおけるファイナンスの世界では、いわゆる効率市場仮説、つまり合理的な行動によって価格が決まるので、そういう価格に則っていろいろ考えるべきだという考えが非常に強力です。現に、金融機関で投資がらみの仕事をしている人は非常に給料が高くて、その給料高い人たちの多くは、効率市場仮説を教えている、例えばアメリカのビジネススクールの卒業生で、学問的にも非常に影響力が大きいのです。

 ところが、現実には株は必ずしも効率的に合理的に動いていないことは知られています。バブルが起きることはしょっちゅうありますし、そのバブルが今度は崩壊することもしょっちゅうあります。2008年にアメリカでリーマンショックが起こって、株価が大暴落しました。後で調べてみると、リーマンショックの前に株を持っていて、パッシブ、いわゆる分散投資で、いろいろと分散して投資した人が、それを一年近く持っていたところ、その価値の半分が失われてしまうという結果になりました。

 これはバブルが崩壊した影響によるものですが、こんなことは合理的な市場では起こり得ない話です。株価が一年にわたってずっと下がっていくとすれば、もっと早くそれが繁栄されているべきだからです。


●行動経済学からみた市場の合理性とは


 そこで経済学の世界でも、いわゆる行動経済学が非常に重要な影響力を持つようになってきました。行動経済学を使って株価をどうみたらいいか、あるいはバブルがどう起きるのかを考えるのはなかなか難しいのですが、よく言われるのは、市場には二つの側面があるということです。

 一つは、大衆の知恵です。多くの人が集まれば集まるほど、全体としての合理性がより出てきて、先ほどの効率市場仮説に近いことが出てきます。現に、全体のほぼ7~8割はそれで正しいと思います。だから、効率市場仮説は非常に学問的にも実務でも重要視されてきました。しかし、大衆はときどき狂気に走るということが起こり得ます。例えばバブルがそうです。つまり、(もう一つの側面である)人びとは常に合理的に行動するわけではないとすると、合理性を逸脱...
テキスト全文を読む
(1カ月無料で登録)
会員登録すると資料をご覧いただくことができます。