●株式市場は必ずしも効率的に動いてはいない
その上で是非もう一つ申し上げたいのは、株式市場やファイナンスの世界でも、この行動経済学が非常に大きな意味を持っていることです。
ファイナンス理論では、いわゆる効率市場仮説が非常に重要な意味と影響力を持っています。要するに、株にしても、不動産にしても、そういう取引をする人たちは非常に合理的にいろいろなことを考えて計算しているのです。実際に、企業の収益を計算したり、企業のいろいろな投資行動を吟味したり、あるいはそのための資金の調達のために金利などいろいろなことをみたりしています。それによって、例えば個々の企業の株価はこれくらいが一番理想的であるというのを決めていき、それがマーケットに反映されるのです。それは個々の企業の株価だけではなくて、例えば日経平均や、ニューヨークダウなどの株価全体の推移にも範囲されます。合理的な期待や効率市場仮説の考え方においては、そういう中でマーケットを出し抜くことは不可能であるという議論がされます。
例えば、今の企業の株価は安すぎるので、今のうちに買っておけば儲かるだろうと考えて株を買う人もたくさんいると思います。しかし、よく考えてみると、もし株が本当に安い、あるいは本来あるべき価格よりも安いことが事実だとしたら、結構みんな気が付くはずです。そうだとすると、それはとっくに株に反映されています。
具体的な例として、例えばあるメーカーが画期的な技術を開発して、この技術があるとこのメーカーはこれから5年後、10年後にものすごく利益が上がるだろうというニュースが朝に流れたとします。そのニュースを聞いて、すぐにその株を買いに行く人はマーケットを分かっていません。日本中の人がそのニュースを見ているので、もうとっくに株価は上がっています。
そういう意味では、マーケットを出し抜くのは非常に難しいし、マーケットはだいたい事実を反映した価格になっているのです。
これは非常に重要な話で、例えば、企業がいろいろな株価や債券を選択して、それを投資信託として売るときに、その選択のためにいろいろな資本を使うことを「アクティブ」というのですが、実はアクティブ投資はあまり意味がないとよく言われます。それはなぜかというと、マーケットの価格自体が非常に大きな流れを読んでいるので、それを出し抜いて買えるはずが...