インフレ社会への転換と日本経済の行方
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
物価も賃金も2%上昇する社会へ…資産運用に敏感な動きが
インフレ社会への転換と日本経済の行方(1)値上げの問題と財政への影響
伊藤元重(東京大学名誉教授)
日本は今、物価も賃金も2パーセント上昇する社会へと移行しようとしている。30年近く続いたデフレの間、国民にはデフレマインドが定着し、値上げができないままでいたが、2022年の後半から3パーセントを超えるような水準でインフレが続いたのだ。この流れによって、社会にどのような変化が起こってくるのか。近年見られる2つの興味深い現象を取り上げながら、企業活動はもとより個人の資産運用から財政運営に至る波及効果について解説する。(全2話中第1話)
時間:14分21秒
収録日:2023年11月1日
追加日:2023年12月12日
カテゴリー:
≪全文≫

●3%以上のインフレで注目…値上げの問題とデフレマインドの定着


 今日は少しインフレについてお話をしたいと思います。

 ご案内のように日本は、もう20年から30年近くデフレないしインフレのない状態が続いてきて、それが正常状態、すなわち普通の人が当たり前と考える状態だったのが、ここに来てかなり変化しています。

 日本のインフレ率は、消費者物価指数の上昇率で見ますが、この12カ月は3パーセントを超えるような高い水準でインフレが続いています。足元に来て、ガスや電力については補助金もあるため若干下がったのですが、いずれにせよまだ2.8パーセントという非常に高い率です。そういうことで、単に物価がゼロから2~3パーセントに上がっただけでなく、人々のものの考え方や企業の行動にもかなり影響が出てきたのではないかと。

 世界的なインフレを考えると、日本はアメリカやヨーロッパに比べてインフレになるスピードが非常に遅く、なかなかインフレにならなかったといっていいと思います。

 よくいわれるのは、原材料である石油や石炭のような燃料、あるいは食料などのコストが上がっても、なかなか価格に添加できないという日本の事情です。そこで自分のところだけが価格を上昇させると、ライバルに持っていかれてしまうのではないかという恐怖感もありました。また、メーカー側が小売業に「値段を上げたい」と提案しても、その場その場ではねつけられるような環境がありました。

 非常に大雑把な言い方をすると、日本全体がデフレマインドの中に浸かってきていた。それが、この1年以上の3パーセントを超えるインフレの中で、人々の考え方が少し変わってきたということだろうと思います。

 非常に印象的だったのは、日本製鉄の橋本英二社長がある雑誌のインタビューでされた発言です。「値上げは営業の問題ではない。値上げは経営の問題であって、社長の問題である」という言い方でした。

 どういうことを言っているかというと、値段を上げるということ自体が企業の経営にとって非常に重要なことであり、経営の根本的な問題であるので、その決断は社長に委ねなければいけない、というメッセージだろうと思います。

 ご案内のように日本製鉄は、トヨタをはじめとする取引先との価格において、ある意味では非常に大胆な値上げを要請することによって、経営を立派に立て直したことで知ら...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
台湾有事を考える(1)中国の核心的利益と太平洋覇権構想
習近平政権の野望とそのカギを握る台湾の地理的条件
島田晴雄
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹

人気の講義ランキングTOP10
内側から見たアメリカと日本(1)ラストベルトをつくったのは誰か
日本でも中国でもない…ラストベルトをつくった張本人は?
島田晴雄
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(4)全てをつなぐ密教の世界観
密教の世界観は全宇宙を分割せずに「つないでいく」
鎌田東二
編集部ラジオ2025(28)内側から見た日米社会の実状とは
島田晴雄先生の体験談から浮かびあがるアメリカと日本
テンミニッツ・アカデミー編集部
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(3)認知バイアスとの正しい向き合い方
知ってるつもり、過大評価…バイアス解決の鍵は「謙虚さ」
今井むつみ
経験学習を促すリーダーシップ(1)経験学習の基本
成長を促す「3つの経験」とは?経験学習の基本を学ぶ
松尾睦
「宇宙の創生」の仕組みと宇宙物理学の歴史(1)宇宙の階層構造
「宇宙の階層構造」誕生の謎に迫るのが宇宙物理学のテーマ
岡朋治
歴史の探り方、活かし方(1)歴史小説と史料探索の基本
日本は素晴らしい歴史史料の宝庫…よい史料の見つけ方とは
中村彰彦
習近平―その政治の「核心」とは何か?(1)習近平政権の特徴
習近平への権力集中…習近平思想と中国の夢と強国強軍
小原雅博
デカルトの感情論に学ぶ(1)愛に現れる身体のメカニズム
デカルトが注目した心と体の条件づけのメカニズム
津崎良典
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(4)トランプ大統領VS.中国
トランプ政権は実は与しやすい?…ディールで「時間稼ぎ」
垂秀夫