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物価も賃金も2%上昇する社会へ…資産運用に敏感な動きが

インフレ社会への転換と日本経済の行方(1)値上げの問題と財政への影響

伊藤元重
東京大学名誉教授
概要・テキスト
日本は今、物価も賃金も2パーセント上昇する社会へと移行しようとしている。30年近く続いたデフレの間、国民にはデフレマインドが定着し、値上げができないままでいたが、2022年の後半から3パーセントを超えるような水準でインフレが続いたのだ。この流れによって、社会にどのような変化が起こってくるのか。近年見られる2つの興味深い現象を取り上げながら、企業活動はもとより個人の資産運用から財政運営に至る波及効果について解説する。(全2話中第1話)
時間:14:21
収録日:2023/11/01
追加日:2023/12/12
カテゴリー:
≪全文≫

●3%以上のインフレで注目…値上げの問題とデフレマインドの定着


 今日は少しインフレについてお話をしたいと思います。

 ご案内のように日本は、もう20年から30年近くデフレないしインフレのない状態が続いてきて、それが正常状態、すなわち普通の人が当たり前と考える状態だったのが、ここに来てかなり変化しています。

 日本のインフレ率は、消費者物価指数の上昇率で見ますが、この12カ月は3パーセントを超えるような高い水準でインフレが続いています。足元に来て、ガスや電力については補助金もあるため若干下がったのですが、いずれにせよまだ2.8パーセントという非常に高い率です。そういうことで、単に物価がゼロから2~3パーセントに上がっただけでなく、人々のものの考え方や企業の行動にもかなり影響が出てきたのではないかと。

 世界的なインフレを考えると、日本はアメリカやヨーロッパに比べてインフレになるスピードが非常に遅く、なかなかインフレにならなかったといっていいと思います。

 よくいわれるのは、原材料である石油や石炭のような燃料、あるいは食料などのコストが上がっても、なかなか価格に添加できないという日本の事情です。そこで自分のところだけが価格を上昇させると、ライバルに持っていかれてしまうのではないかという恐怖感もありました。また、メーカー側が小売業に「値段を上げたい」と提案しても、その場その場ではねつけられるような環境がありました。

 非常に大雑把な言い方をすると、日本全体がデフレマインドの中に浸かってきていた。それが、この1年以上の3パーセントを超えるインフレの中で、人々の考え方が少し変わってきたということだろうと思います。

 非常に印象的だったのは、日本製鉄の橋本英二社長がある雑誌のインタビューでされた発言です。「値上げは営業の問題ではない。値上げは経営の問題であって、社長の問題である」という言い方でした。

 どういうことを言っているかというと、値段を上げるということ自体が企業の経営にとって非常に重要なことであり、経営の根本的な問題であるので、その決断は社長に委ねなければいけない、というメッセージだろうと思います。

 ご案内のように日本製鉄は、トヨタをはじめとする取引先との価格において、ある意味では非常に大胆な値上げを要請することによって、経営を立派に立て直したことで知ら...
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