●この20年で大幅に認知された行動経済学
四つ目に紹介したいテーマとして、行動経済学について触れてみたいと思います。
本(『マネジメント・テキスト ビジネス・エコノミクス 第2版』(伊藤元重著、日本経済新聞出版)の中でも一章分を行動経済学に割いています。実はこの本は、今からちょうど20年前に第一版が出ていて、幸いなことに、当時もずいぶん多くの人に読んでいただくことができました。これを20年ぶりに大幅改定して、本の中身がかなりガラッと変わりました。その中でも非常に大きな変化が、20年前には本の中になかった行動経済学を、一つの新しい章に起こしていることです。
ある意味では行動経済学は、もちろん当時から学問の世界では重要なポジションとしてありましたが、実際にそれが世の中にどんどん広がっていったのは、この20年ほどでした。最初は異端として見られていた行動経済学が、非常に重要な意味を持っていることが分かってきました。
●人間は必ずしも合理的な行動をするわけではない
行動経済学が何かを一言でいうと、次のような説明になります。人間は必ずしも合理的な行動をするわけではありません。合理的に行動するわけではないのですが、合理的に行動しないにしても、全くランダムに非合理に行動するわけではなくて、ある種の癖を持っています。その非合理性をきちんと分析することによって、実はいろいろなことに役に立つ、あるいはいろいろなことが見えてくるというのが、行動経済学の議論です。
行動経済学はビジネス・エコノミクスにも関係します。非常に面白いのは、一方では例えばマーケティングや、消費者にどう対応するかというミクロ的な問題にも非常に大きなサジェスチョンがあることです。世の中でもよくそういう本がたくさんあります。それと同時に他方で、資産バブルなど、いわゆる金融市場のような非常に大きな世の中の変化を見るときにも役に立ちます。つまり、多様な使われ方をしているのです。
もともとの経済学の議論や、ビジネス・エコノミクスの議論でも前回触れたゲーム理論や、第一回で触れた価格の話のように、非常に合理的な行動を前提として、より深く分析できる分野もあります。たしかに人間には合理的な部分があるので、そこを重視することも重要です。しかし、われわれはいつでも合理的に行動しているわ...