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行動経済学の教科書によく出てくる面白い事例とデコイ効果

ビジネス・エコノミクス(4)行動経済学の活用<前編>

伊藤元重
東京大学名誉教授
情報・テキスト
20年ほど前には異端として見られていた行動経済学が、非常に重要な意味を持っていることが分かってきた。行動経済学は、人びとの行動は必ずしも合理的でないことを踏まえた議論で、消費者の癖を利用しつつ、モノの売買やマーケティングを計画する際に積極的に活用されている。(全5話中第4話)
時間:10:08
収録日:2021/12/09
追加日:2022/03/10
タグ:
≪全文≫

●この20年で大幅に認知された行動経済学


 四つ目に紹介したいテーマとして、行動経済学について触れてみたいと思います。

 本(『マネジメント・テキスト ビジネス・エコノミクス 第2版』(伊藤元重著、日本経済新聞出版)の中でも一章分を行動経済学に割いています。実はこの本は、今からちょうど20年前に第一版が出ていて、幸いなことに、当時もずいぶん多くの人に読んでいただくことができました。これを20年ぶりに大幅改定して、本の中身がかなりガラッと変わりました。その中でも非常に大きな変化が、20年前には本の中になかった行動経済学を、一つの新しい章に起こしていることです。

 ある意味では行動経済学は、もちろん当時から学問の世界では重要なポジションとしてありましたが、実際にそれが世の中にどんどん広がっていったのは、この20年ほどでした。最初は異端として見られていた行動経済学が、非常に重要な意味を持っていることが分かってきました。


●人間は必ずしも合理的な行動をするわけではない


 行動経済学が何かを一言でいうと、次のような説明になります。人間は必ずしも合理的な行動をするわけではありません。合理的に行動するわけではないのですが、合理的に行動しないにしても、全くランダムに非合理に行動するわけではなくて、ある種の癖を持っています。その非合理性をきちんと分析することによって、実はいろいろなことに役に立つ、あるいはいろいろなことが見えてくるというのが、行動経済学の議論です。

 行動経済学はビジネス・エコノミクスにも関係します。非常に面白いのは、一方では例えばマーケティングや、消費者にどう対応するかというミクロ的な問題にも非常に大きなサジェスチョンがあることです。世の中でもよくそういう本がたくさんあります。それと同時に他方で、資産バブルなど、いわゆる金融市場のような非常に大きな世の中の変化を見るときにも役に立ちます。つまり、多様な使われ方をしているのです。

 もともとの経済学の議論や、ビジネス・エコノミクスの議論でも前回触れたゲーム理論や、第一回で触れた価格の話のように、非常に合理的な行動を前提として、より深く分析できる分野もあります。たしかに人間には合理的な部分があるので、そこを重視することも重要です。しかし、われわれはいつでも合理的に行動しているわけではありません。いつでも合理的に行動しているわけではないとすると、合理的に行動していない部分を少しみる重要性もあり、これは大事なことだと思います。


●消費者の癖をマーケティングにうまく利用することが重要


 われわれが一日に何回いろいろなことを決断しているかをよく考えてみると、実はものすごい数の決断をしています。朝起きてまずどの服を着るか、あるいは起きてから、最初に歯を磨くのか、それとも庭に水やりをするかなど、いろいろなことを決めます。また、朝ご飯をどうするのか、朝ごはんの片づけをどうするのか、何時に家を出るか、家を出たときにどの道を歩いて行くか、道を歩いているときに向こうから自分の嫌いな人がやってきたらどうするかなど、一度、決断の数を数えてみるとよいでしょう。一日におそらく何千回と決断しています。しかし、その度にいちいち合理的に判断しているのではなくて、おそらく条件反射的にいろいろな行動することが多いと思います。そのある種の癖を見なければいけません。

 この本の中でいくつか紹介されている中で、行動経済学とマーケティングとの絡みでよく出てくる一つの重要な事例があります。それは、人間には絶対的な評価はなかなか難しいということです。

 例えば目の前にワインがあったときに、そのワインがどれだけのおいしさなのか、どれだけの価値があるかは、ワインにこだわりのある人であれば別ですが、普通はそう簡単には判断できないと思います。

 ではどうするかというと、相対評価するしかありません。 二つのものがあったときに、この左と右どちらの方が良いのかを、いろいろな比較の中から決めていきます。

 ワインの例でいうと、あるレストランがあり、メニューに二つのワインが入っています。一つは1000円のワインで、もう一つは2000円のワインです。店の方もそれなりにこだわりがあるので、値段が高いものは2000円、値段が安いものは1000円かもしれません。そして、たぶん2000円のワインのほうが少し美味しいかもしれません。そういうメニューを見て、お客さんはどういう購買行動をするかというと、何となく1000円のワインを選ぶ人もいるし、2000円のワインを選ぶ人もいます。半々ぐらいで、1000円と2000円が分かれている傾向のパターンがあったとします。ところがあるときこのメニューが変わって、1000円のワインと2000円のワインは残ってはいる...
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