●「縦の構造」、モノが作られてから消費者に届くまでの流れを追う
では、二つ目の話題を提供させていただきたいと思います。これは、私の『ビジネス・エコノミクス』の2章、3章、4章あたりでかなり議論しています。
学生に、経済をみるときには、「縦の構造」をみることがすごく重要だとよく言っています。縦の構造とは何かというと、例えば皆さんがドラッグストアに行って、風邪薬を買うとします。その場合、消費者はドラッグストアのお店の棚に置いてある風邪薬を買います。ドラッグストアのその風邪薬がどこから来るかというと、問屋さんが持ってきます。問屋さんが持ってくるドラッグストアの薬がどこから来るかというと、メーカーが作っています。
そうすると、価格一つとっても、消費者がお店に払う価格もありますが、実際にドラッグストアがメーカーあるいは問屋さんから買うときのお金もあります。もちろん消費者が払う金額の方が、ドラッグストアがメーカーや問屋さんに払う金額よりも高くて、その差額が小売りマージンという形で儲けになります。
業界では、消費者がお店で払うお金のことを上の代金で「上代」と呼びます。それに対して、ドラッグストアが上流であるメーカーに支払う仕入れ価格のことを下の代金で「下代」と呼びます。こういう関係をみることによって、いろいろなことが可能になってくることをこの本の中で議論しています。
今の薬の話もそうですが、なぜユニクロやニトリのような「SPA」と呼ばれている業態が急速に成長してきたのかについて、そのビジネス・モデルを考える際にも、下流だけ見るのではなくて、上流から下流までの流れがどうなっているかを少し考えてみると非常に面白いと思います。
●薬屋で特定のメーカーの商品を勧められるのはなぜなのか
このように、経済を上から下まで、川の上流から下流までをどうやって見るかは非常に重要な話です。最近はそうでもないのかもしれませんが、私の本の中にも出てくる昔から有名な話の例があります。少し前に、学生と一緒に調査研究した時に、学生に薬局に行って、風邪薬を買ってきてもらいました。ドラッグストアというよりも、できるだけ個人でやっているあまり大きくない個人薬局に行ってもらいました。昔はそういう薬局が多かったからです。
当然、薬局の店主は薬剤師で専門家なので、「頭痛がする」「喉が痛い」などと言って、どんな薬が良いか聞いてみました。学生の感想では、「特定の銘柄の商品を勧めてくるケースが結構多い」ということでした。われわれが扱ったケースでいうと、武田薬品や第一三共といった大手の薬で、武田のベンザエースや三共のルルなどの風邪薬を出すところもあれば、大正製薬や佐藤薬品の製品もありました。
結果的に何が起こったかというと、武田や三共よりも大正や佐藤薬品の薬を勧めているケースが結構多いようにわれわれは感じました。これはもう10年以上前の話です。調べてみたら理由は簡単で、例えば1000円という値段で、上述した4つの薬が売られているとして、大正製薬あるいは佐藤薬品の薬は、実は小売りマージンが60%パーセント(6割)なので、実際に小売店がメーカーに支払う価格は400円くらいです。それに対して、武田や三共は、実は小売りマージンが4割とか3割とかなので、1000円の薬を500円や600円、あるいは700円で調達しているケースが多いのです。
それはどうしてかというと、いろいろな理由があるのですが、武田や三共は問屋さんを使ってメーカーが小売店に売るという伝統的な影響力が非常に強いメーカーでした。それに対して、戦後後発で急速に成長した大正製薬や佐藤薬品などは、積極的に小売店に売ってもらいたいために、自ら小売店にいわばディスカウントして売っていました。別に割り引いているわけではなくて、安い価格で売っています。そのため、薬局から見ると、大正製薬や佐藤薬品の薬を売った方が実はマージンが高くて儲かります。つまり、メーカーはディスカウントした価格を小売店に提供しているのです。消費者からみるとそれは分からないのですが、メーカーの小売店にとってみると非常に大きなインセンティブになっています。
そういう形で、価格設定を上代だけではなくて、下代の仕入れ価格までみてみると、いろいろなことが見えてきます。本の中では、ユニクロがなぜ成長したのか、あるいは100円ショップがなぜ成功したのかもその話にかけて議論しているので、是非読んでいただきたいと思います。
●電動化で揺らぐ自動車業界のピラミッド構造と「ティア0」の登場
その上で一つだけ別のコンテクストで、上流から下流までみることの重要性について、話題を提供してみたいと思います。
自動車業界で、ティア1、ティア2、ティア3という言葉が使われているのを聞いたこと...