世界経済の見方とIMFの役割
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地政学的緊張が招く世界経済のダウンサイドリスクとは
世界経済の見方とIMFの役割(4)地政学リスクによるインフレの正体
田中琢二(元・国際通貨基金(IMF)日本代表理事)
パンデミック危機から回復基調にあった世界経済は、地政学的リスクという要因によって再び混迷の度合いを深めている。当初の予想に反して長引くウクライナ戦争もその一因となって、世界のエネルギーや食料の高騰、サプライチェーンの分断などを招き、インフレ期待が増進し、やがて実質経済成長に大きな影響を及ぼすことになる。そうした今後の経済のダウンサイドリスクについて、IMFの分析をもとに解説する。(全6話中第4話)
時間:12分21秒
収録日:2023年1月11日
追加日:2023年2月23日
≪全文≫

●金利上昇で市場調整の波が広がる


 今後の経済のリスクの所在、そして、そうしたリスクが実質経済成長にどのような経路で影響を与えるのかについてお話をします。

 図の左上の2つ、パンデミックがさらに蔓延するのか、そしてウクライナ戦争はいつまで続くのか、あるいは他の地政学的リスクが顕在化するのかという問題があります。パンデミックが収まらないと、生産に支障をきたし供給が制約されます。また、活動が制限される中で貯蓄が高まり、買い控えていた消費者が、買い控えを終えて一気に消費に走るペントアップ需要の増加が見られ需給のバランスが崩れ、インフレ圧力になります。

 次に、ウクライナ戦争や他の地政学的リスクの高まりにより、サプライチェーンの分断や再構築の必要性に迫られます。サプライチェーンの分断の中で適材の人材を見つけるために、人件費が高くなる方向に働きます。サプライチェーンの再構築は日本でもその必要性に取り組んでいる企業もありますが、時間がかかることですぐに解決できず、サプライチェーンの分断は当面続くことになります。さらに、エネルギー価格や食料価格の高止まりが見られることになり、これもインフレ圧力になります。

 こうしてインフレが進むと当然金融政策が対応し、短期金利とともに長期金利も上昇する可能性が高くなります。そうすると、国・企業の債務が増大します。金利負担に耐えきれず、債務の持続可能性に問題が出てくる国が増え、債務問題もこれからより顕在化するおそれがあります。金利が高くなりますから、利益を生んでいない生産性の低いゾンビ化(Zombification)した企業等は返済に困難をきたします。

 これらの企業が債務不履行になり、返済ができない状態、つまりインソルベンシーに陥り、そうした企業の数が増えますと金融機関側は償却せざるを得なくなり、自己資本が毀損します。そうした資本の毀損に耐え得るのか、金融システムの強靭性が問われることになります。この点、リーマン・ショック後、金融機関の自己資本は充実しているので、いまのところ金融機関サイドの懸念はありませんが、どのくらいのサイズで不良債権が増加するか注意する必要があります。

 さらにインフレが進み金利が上昇すると、金融資本市場、並びに住宅市場も大きな影響を受け、価格の調整、いわゆるリプライシン...

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