世界経済の見方とIMFの役割
この講義シリーズは第2話まで
登録不要無料視聴できます!
▶ 第1話を無料視聴する
閉じる
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
IMFはなぜインフレが「一時的」なものだと見誤ったのか
世界経済の見方とIMFの役割(3)世界的な景気減速がもたらすもの
政治と経済
田中琢二(元・国際通貨基金(IMF)日本代表理事)
パンデミックによる経済危機から立ち直り始めた世界経済は、「一時的」なインフレを伴いながらも着実に回復するものと予想されていた。ところが、ウクライナ戦争が勃発して世界のエネルギー価格が急騰すると、さらなるインフレ圧力が高まって食料その他の価格上昇を招き、世界経済に暗雲が再び立ち込めてきた。これらの重層的要因から2023年はどうなるか、分析を進める。(全6話中第3話)
時間:11分39秒
収録日:2023年1月11日
追加日:2023年2月16日
≪全文≫

●狭まる政策余地と世界経済の分断化


 前回まで、パンデミックの発生に伴う世界経済危機が起こり、一時はデフレの危機にあった経済がさまざまな要因によりインフレが顕著になってきたことを説明しました。そして2021年までは、このインフレが一時的なものと捉えられていたのです。しかし2022年に、さらに状況は変化していきます。

 2022年2月にウクライナ戦争が始まりました。このウクライナ戦争が世界経済に甚大な影響を及ぼすと、当初はあまり理解されていませんでした。しかし、ロシアからの天然ガスの供給が減少し、世界のエネルギー価格が急激に上昇しました。アメリカでもガソリンの値段がリッター当たり日本円で換算すると220円近くになり、日本のガソリン価格よりも高くなる時期もありました。また、ウクライナやロシアからの食料輸出が減少し、食料価格の急騰もインフレの押し上げ要因になりました。

 インフレの背景に、サプライチェーンの分断、消費者が買い控えを終えて一気に消費に走るペントアップ需要の増大、賃金の上昇というこれまでの要因に加え、エネルギー価格、食料価格の上昇という要因が重層的に加わり、インフレ圧力は高まりを見せていきます。一時的と思われたインフレは、もはや一時的なものではなくなりました。

 2022年の春以降、世界経済の問題点が明確になってきました。まずはこれまで見てきたように、インフレ期待の高まりと金融の引き締めが挙げられます。2022年に入り、インフレは「一時的」ではなく、インフレ期待が中央銀行の物価目標から逸脱するリスクが高まっているとされました。先進国の金利引き上げに伴い、新興・途上国では借入環境等が困難化したり、資本の流出といった金融環境の変化が懸念される事態になりました。これを「国際金融環境のタイト化と資本流出の可能性の高まり」とIMFは表現しました。

 次に財政面では、パンデミックによってすでに多くの国で政策余地が狭まり、支援の段階的撤廃が進む状況にあります。足下の1次産品価格の高騰と世界的な金利上昇によって政策支援の必要性が高まるものの、石油・食料輸入国を中心に財政余地は限定的になってきます。これまで財政支出の増加に伴い債務が増加してきたことに加えて、金利の上昇とともに債務の持続可能性に関する問題を抱える途上国の増加が懸念されるようにな...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
デジタル全体主義を哲学的に考える(1)デジタル全体主義とは何か
20世紀型の全体主義とは違う現代の「デジタル全体主義」
中島隆博
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
多数派が多数でなくなるとき
悩める多数派…なぜ「多数は少数の集まり」と考えるべきか
曽根泰教
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
外交とは何か~不戦不敗の要諦を問う(1)著書『外交とは何か』に込めた思い
外交とは何か…いかに軍事・内政と連動し国益を最大化するか
小原雅博
日本の財政政策の効果を評価する(1)「高齢化」による効果の低下
高齢化で財政政策の有効性が低下…財政乗数に与える影響
宮本弘曉

人気の講義ランキングTOP10
未来を知るための宇宙開発の歴史(14)宇宙開発は未来をどう変えるか
『2001年宇宙の旅』が現実になる!?カギは宇宙医学
川口淳一郎
徳と仏教の人生論(2)和合の至りと正直
正直とは何か――絶対的存在との信頼関係の根幹にあるもの
田口佳史
ショパンの音楽とポーランド(1)ショパンの生涯
ショパン…ピアノのことを知り尽くした作曲家の波乱の人生
江崎昌子
産業イニシアティブでつくるプラチナ社会(2)再生可能エネルギーの可能性と経済性
やればできる!再生可能エネルギーのポテンシャル高い日本
小宮山宏
クーデターの条件~台湾を事例に考える(6)クーデターは「ラストリゾート」か
中国でクーデターは起こるのか?その可能性と時期を問う
上杉勇司
大谷翔平の育て方・育ち方(1)花巻東高校までの歩み
大谷翔平の育ち方…「自分を高めてゆく考え方」の秘密とは
桑原晃弥
【入門】日本仏教の名僧・名著~総論(1)名僧の原著に触れる意味
「文は人なり」――原文を読んで名僧の思想の息吹に触れる
賴住光子
編集部ラジオ2025(25)クーデターで考える「政治の要点」
台湾クーデター・シミュレーション…「世直し」への条件
テンミニッツ・アカデミー編集部
エンタテインメントビジネスと人的資本経営(1)ソニー流の多角化経営の真髄
ソニー流「多角化経営」と「人的資本経営」の成功法とは?
水野道訓
学力喪失の危機~言語習得と理解の本質(1)数が理解できない子どもたち
なぜ算数が苦手な子どもが多いのか?学力喪失の真相に迫る
今井むつみ