世界経済の見方とIMFの役割
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IMFはなぜインフレが「一時的」なものだと見誤ったのか
世界経済の見方とIMFの役割(3)世界的な景気減速がもたらすもの
田中琢二(元・国際通貨基金(IMF)日本代表理事)
パンデミックによる経済危機から立ち直り始めた世界経済は、「一時的」なインフレを伴いながらも着実に回復するものと予想されていた。ところが、ウクライナ戦争が勃発して世界のエネルギー価格が急騰すると、さらなるインフレ圧力が高まって食料その他の価格上昇を招き、世界経済に暗雲が再び立ち込めてきた。これらの重層的要因から2023年はどうなるか、分析を進める。(全6話中第3話)
時間:11分39秒
収録日:2023年1月11日
追加日:2023年2月16日
≪全文≫

●狭まる政策余地と世界経済の分断化


 前回まで、パンデミックの発生に伴う世界経済危機が起こり、一時はデフレの危機にあった経済がさまざまな要因によりインフレが顕著になってきたことを説明しました。そして2021年までは、このインフレが一時的なものと捉えられていたのです。しかし2022年に、さらに状況は変化していきます。

 2022年2月にウクライナ戦争が始まりました。このウクライナ戦争が世界経済に甚大な影響を及ぼすと、当初はあまり理解されていませんでした。しかし、ロシアからの天然ガスの供給が減少し、世界のエネルギー価格が急激に上昇しました。アメリカでもガソリンの値段がリッター当たり日本円で換算すると220円近くになり、日本のガソリン価格よりも高くなる時期もありました。また、ウクライナやロシアからの食料輸出が減少し、食料価格の急騰もインフレの押し上げ要因になりました。

 インフレの背景に、サプライチェーンの分断、消費者が買い控えを終えて一気に消費に走るペントアップ需要の増大、賃金の上昇というこれまでの要因に加え、エネルギー価格、食料価格の上昇という要因が重層的に加わり、インフレ圧力は高まりを見せていきます。一時的と思われたインフレは、もはや一時的なものではなくなりました。

 2022年の春以降、世界経済の問題点が明確になってきました。まずはこれまで見てきたように、インフレ期待の高まりと金融の引き締めが挙げられます。2022年に入り、インフレは「一時的」ではなく、インフレ期待が中央銀行の物価目標から逸脱するリスクが高まっているとされました。先進国の金利引き上げに伴い、新興・途上国では借入環境等が困難化したり、資本の流出といった金融環境の変化が懸念される事態になりました。これを「国際金融環境のタイト化と資本流出の可能性の高まり」とIMFは表現しました。

 次に財政面では、パンデミックによってすでに多くの国で政策余地が狭まり、支援の段階的撤廃が進む状況にあります。足下の1次産品価格の高騰と世界的な金利上昇によって政策支援の必要性が高まるものの、石油・食料輸入国を中心に財政余地は限定的になってきます。これまで財政支出の増加に伴い債務が増加してきたことに加えて、金利の上昇とともに債務の持続可能性に関する問題を抱える途上国の増加が懸念されるようにな...

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