●トランプの目論む「逆ニクソン戦略」
こういった時代背景があってトランプが出てきたのですけれど、先ほど(第1話で)も申しましたように、トランプはキッシンジャーの直系の弟子といえる人物です。ここでトランプの対露ディール外交のビジョンは、明確化された米露間の影響圏、19世紀の帝国主義の論理を21世紀に持ってきて、米露間で影響圏の線引きをしようというのが、今の米露の接近の背景になります。
これはロシアをちゃんと大国として永遠に存続するということを受け入れた前提なのです。なので、これはアメリカとロシアに経済格差とかがあるにしろ、対等な関係で話し合うということなのです。
トランプが目指す対露ディール外交のゴールなのですけれど、これはウクライナ戦争の負担を欧州に押し付けて、ロシアを国際社会に戻して、対中牽制を強化することです。この戦略は「逆ニクソン戦略」(と呼ばれるもの)で、ロシアと組んで中国を封じ込めるということです。
逆ニクソン戦略はキッシンジャーの最大の遺産であり、この写真にあるようにトランプ第1期目のときは、頻繁にキッシンジャーがホワイトハウスに訪問して、トランプにいろいろと外交のアドバイスをしていました。下の写真は、クレムリンにキッシンジャーが訪問してプーチンと会談しているところなのですけれど、このときもかなりプーチンにいろいろなアドバイスをして(います)。
キッシンジャーはウクライナ戦争で米露の対話のチャンネルが途絶えた後でも積極的にクレムリンに訪問して、プーチンと会談をします。かなり高齢で100歳ぐらいの歳ですが、ワシントンとモスクワを行き来していた方なのです。キッシンジャーは、ただの理論家ではなくて、本当の裏の外交チャンネルを握っているのです。キッシンジャーがそういった役割を演じていたので、今回の米露間のウクライナ和平に関する構想も、かなり彼自身が練ったものがあるのです。
●キッシンジャーの考えるウクライナ戦争のシナリオ
キッシンジャーはウクライナ戦争に関するどういう認識を持っているのかというと、これは2022年7月に彼が提唱した案なのですが、まず当時のウクライナ戦争の方向性を3つ挙げました。
1番目は現状ラインで停戦というもので、これはロシアの勝...