歴史的に考えるウクライナ問題とロシア
この講義は登録不要無料視聴できます!
▶ 無料視聴する
次の動画も登録不要で無料視聴できます!
20世紀以降、世界史を転換させたロシアによる四つの大事件
第2話へ進む
プーチンが信じる「大ロシア再生」のための使命とは
歴史的に考えるウクライナ問題とロシア(1)プーチン大統領の使命感
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ロシアのウクライナ侵攻に関するニュースは連日報道されているが、進行中の事態を正しく理解するには、その奥に潜む歴史的・大局的な観点が必要である。いったいロシアはどのような使命感を持ち、プーチン大統領は何を実現しようとしているのか。まずは地政学的に見たロシアの特殊性を解説いただく。(全5話中第1話)
時間:10分53秒
収録日:2022年5月24日
追加日:2022年7月7日
≪全文≫

●アジアとヨーロッパにまたがるロシアの自意識


 皆さん、こんにちは。今日はロシアのウクライナ侵攻問題について、できるだけ全体的に、そしてより歴史的・大局的な観点を含めてお話ししてみたいと思います。

 18世紀から19世紀にかけて活躍したロシアの思想家にピョートル・チャーダーエフという人がいます。チャーダーエフはヨーロッパへの留学などを経て、「自由とは何か」「人権とは何か」、そして「人々の生き方とは何か」ということを真摯に考えました。その結果として、「18~19世紀帝政ロシアにおける自由の欠如」という問題について深い考察をするようになった初期の思想家です。

 チャーダーエフの代表的な作品は『哲学書簡』と呼ばれるもので、元来フランス語で書かれていますが、その中にこういう一節があります。「ロシア人は人類全体の一部を構成するというよりは、むしろ世界に大きな教訓を与えるためにだけ存在する民族なのです」というものです。

 どういうことを言っているかというと、ロシアというのはヨーロッパやアジアの他の国々と違って、ヨーロッパとアジアにまたがる巨大な国だということが、まず第一の前提です。すなわち、チャーダーエフの言葉を借りるならば、「ロシアはアジアとヨーロッパの大きな分かれ目、その分岐する場所にあり、肘の片方をドイツに置いて、もう一方を中国に置いている」という比喩になります。すなわち、ロシア人はアジアでもあり、ヨーロッパでもある。これは、後に他の人たちが体系化したり主張したりすることになる「ユーラシア国家(ユーラシア国家論)」という考えにもつながるものです。

 こうした巨大な国家であるロシアは本来、知性と想像力を自らの中に融合し、かつ世界の歴史をロシアの文明と融合させて新しい世界を作り出していく。そのようにロシア文明と世界史を結合させる使命を持っているはずだったということです。


●人間の自由や多様性をないがしろにしてきたロシアの歴史


 しかしながら私の考えは、少し違います。今回の話はウラジーミル・プーチン大統領を主役として語ることになりますが、プーチン大統領が尊敬したピョートル大帝やエカテリーナ二世といった人々(の存在にさかのぼってみることにしましょう)。彼らは文明の本質ともいうべき「人間の...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
クーデターの条件~台湾を事例に考える(1)クーデターとは何か
台湾でクーデターは起きるのか?想定シナリオとその可能性
上杉勇司
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
墨子に学ぶ「防衛」の神髄(1)非攻と兼愛
『墨子』に記された「優れた国家防衛のためのヒント」
田口佳史
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫

人気の講義ランキングTOP10
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
内側から見たアメリカと日本(7)ジャパン・アズ・ナンバーワンの弊害
ジャパン・アズ・ナンバーワンで満足!?学ばない日本の弊害
島田晴雄
歴史の探り方、活かし方(7)史料の真贋を見極めるために
質疑編…司馬遼太郎の「史料読解」をどう評価する?
中村彰彦
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
戦争と暗殺~米国内戦の予兆と構造転換(1)内戦と組織動乱の構造
カーク暗殺事件、戦争省、ユダヤ問題…米国内戦構造が逆転
東秀敏
ChatGPT~AIと人間の未来(1)ChatGPTは何ができて、何ができないか
ChatGPTは考えてない?…「AIの回答」の本質とは
西垣通
熟睡できる環境・習慣とは(2)酒、コーヒー、ブルーライトは悪者か
ブルーライトは悪者か?近年分かった「第3の眼」との関係
西野精治