皇帝バトゥとプーチン~絵入り年代記が伝えるロシアの歴史
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かつてロシアを征服した皇帝バトゥとプーチンの共通点
皇帝バトゥとプーチン~絵入り年代記が伝えるロシアの歴史
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ウクライナ問題に関する時事的な指摘は多いが、ロシア・ウクライナ両国の基礎的な関係や歴史的・文明論的つながりに立ち戻る議論は少ない。そのような見方を呈示する書物として今回取り上げるのは、『「絵入り年代記集成」が描くアレクサンドル・ネフスキーとその時代』(栗生沢猛夫著・編集・翻訳・解説、成文社)である。細密画を伴ったこの重厚な研究書が伝えるロシアの歴史をもとに、現在のウクライナ情勢を考える。
時間:19分05秒
収録日:2022年6月6日
追加日:2022年9月14日
≪全文≫

●ロシア音楽の名作が描いた侵略と戦争


 今日は、最近出されたロシア中世史に関する大変興味深く重厚な研究書で、中世ロシア語による解説文入りの細密画を数多く入れられた美術書の趣きもある書物を手がかりに、現在のウクライナ情勢を考えてみたいと思います。

 その書物は美術と歴史に関係するものですが、私のほうは週末にボロディンの「イーゴリ公」という曲を聴いてきました。もともとこの曲から取られた「韃靼人の踊り」というパートが、特によく知られています。

 久しく機会のなかった演奏会でしたが、たまたま出かける機会を持ちました。これは、ロシアの英雄であるイーゴリ大公を描いたもので、イーゴリはいろいろに誤解され、異民族と戦うとか韃靼人すなわちタタール人と戦うなどといわれますが、どうだったのでしょうか。

 「タタール」というのはしばしば東欧の諸国一般を呼ぶ言葉として用いられます。その中にモンゴル人が含まれていて、後ほど解説していく書物に出てくるのはモンゴル人です。しかし、これとは別にトルコ系の民族として「タタール」と言われる人たちもいました。これらが一緒になっているところがあります。

 彼(イーゴリ公)はタタール人と戦うのですが、イーゴリもタタール人も究極的にはお互いを称え合っており、互いの勇気や活力、伝統をほめ合います。そして、双方が共存・共栄しようというように、互いを尊重するモチーフによって物語がつながっていきます。ボロディンは、これを非常に見事な曲で表現しました。

 そして私は、今朝家を出る前にチャイコフスキーを聴きたくなり、慌ただしく「大序曲『1812年』」を聴いてきました。これは、まさにあのナポレオン、すなわちフランス人からのロシアの解放を高らかに称え上げた愛国の讃歌、愛国の交響曲であることはご案内だと思います。

 ここでは、(フランス国歌)「ラ・マルセイエーズ」が重要なモチーフになります。最初は高らかに鳴るけれども、最後にはしぼんで惨めに終わっていく。つまり最初は征服するかのような勢いできたフランス人だけれども、最後はロシア人をはじめとするスラブ諸民族や他の民族たちの抵抗によって駆逐されていく。「ラ・マルセイエーズ」はつぶされながら、惨めな形で帰っていく。最後は高らかにトランペットやティンパニーによるフィナーレが鳴り響く...

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