歴史的に考えるウクライナ問題とロシア
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『真空地帯』を想起させるロシア軍の腐敗という根深い問題
歴史的に考えるウクライナ問題とロシア(3)ロシア国家の腐食と軍の腐敗
山内昌之(東京大学名誉教授/歴史学者/武蔵野大学国際総合研究所客員教授)
ロシア軍とウクライナ軍では「命」の値段が違うとささやかれる。祖国を防衛するために立ち上がったウクライナ兵と、上層部が掲げる理想を追求するために集められたロシア兵とでは、そもそも使命感が違うからだ。さらにロシア社会では、国を運営する一部エリートの優遇を受け入れてきた歴史が、市民の声を封じている。(全5話中第3話)
時間:12分47秒
収録日:2022年5月24日
追加日:2022年7月21日
≪全文≫

●ロシア軍兵士の「命は鴻毛より軽し」


 皆さん、こんにちは。

 日本語には、もともと中国に由来する言葉として、「命は鴻毛(こうもう)より軽し」というものがあります。人間の生命は鳥の羽よりも軽いという意味です。私は、ウクライナに侵攻したロシア軍の兵士たちを見て、プーチン大統領は兵士たちの生命をどう考えているのかと思うたびに、この言葉を思い出すのです。

 私たちの反省として、戦前の帝国陸軍はまさに兵士の命について「鴻毛より軽し」といった感覚で接していた気配がありました。しかし21世紀の現在に、資本主義のもとで繁栄を極め繫栄する基盤もあるはずのロシアにおいて、国民にその幸福が届けられず、大統領の栄耀栄華を支えるためにウクライナへの侵攻が正当化されるのを見ては、現代人として唖然たらざるを得ない思いがするのです。

 つまりプーチン氏においては、「プーチンあっての国民」である。そして、「プーチンこそがロシア国家=母なるロシア」である。母なるロシア、祖国としてのロシアの体現者として、エリートであるプーチンがいてこその国民である。こうした独特な国家観は私たちには信じられないほどですが、ロシアの一部においては強いものがあります。

 すなわちもう一度申しますと、国民は母なるロシア──人になぞらえるとプーチン氏ということになります──プーチン氏を守る必要がある。しかしながら、母なるロシアすなわちプーチン氏のほうには、体を張って国民を守る意識は希薄である。すなわち兵士たちは国家のために倒れても仕方がない。戦前の帝国陸軍の用語などを借りれば、まさに「撃ちてし止まむ(ん)」の言葉につながるような若い兵士たちの姿。ロシアのこれからの将来を担うはずの若者たちの生命を全くいとわず、その戦死について注意を払うことが少ない点は、たいへん遺憾です。


●社会的エリートだけが重要視されるロシア社会


 現在、日本やアメリカにおいては、国家は基本的に「国民の自由」と「国民の権利」を守るために存在します。抽象的な存在としての国家を守るため、あるいは国家を代弁するとされるエリートを守るために国民がいるというようなことを信じ、語るような者がいる可能性はほとんどあり得ません。あくまでも国民の自由・生命・権利を守るために国家は存在するのであって、その逆ではないのです。

 ところがプーチン氏は、まさにス...

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