●運用者の思考パターンを資産運用や生活のヒントに
テンミニッツTVをご覧の皆様、こんにちは。養田と申します。私は、三井住友DSアセットマネジメントという運用会社において、債券、マルチアセット、クオンツ運用などを統括しております。どうぞよろしくお願いいたします。
私はこれまで、前職での三井住友銀行における市場取引、運用経験も含め、30年余りグローバルな金融市場の動向を見てまいりました。
その間、日本のバブル崩壊、金融機関の破綻に始まり、米国同時多発テロ、リーマンショックなど数々の危機、アベノミクスに代表される超金融緩和政策、あるいは中国の台頭と米中対立、ロシア紛争などの国際政治の変化、そして、少子高齢化や財政支出の拡大などの構造的問題を目の前にし、その都度、最適な運用とは何かと考えてまいりました。
今回、このような機会をいただいたことで、私は、運用者としての思考パターン、頭の中を再整理し、どんな事を考えて対応してきたか、これからどう考えていくかを皆様にお伝えすることにチャレンジしたいと思います。
もちろん運用者の頭の中は多種多様です。私よりも優秀な運用者はこの世にたくさんいらっしゃいます。よって、私が申し上げることが全て正しいわけでは無いことには疑いがありません。
ただ、こうした試みを通じて、皆様が金融経済政治動向から生じるさまざまな情報を処理し、資産運用だけでなくビジネスや生活におけるヒントをつかむことに、少しでも貢献できればと思っております。どうぞよろしくお願いいたします。
●運用を考える際の3つの視点
それでは早速、このイメージ図をご覧ください。上段の囲みは、運用を考える上での材料をどのように仕分けしながら考えるかの整理です。
大きく短期、中期、長期の3つの視点で考えます。
短期的なものは、いわゆる相場のイベントのようなもので、例えばアメリカ雇用統計のような重要指標やFOMC(アメリカ連邦公開市場委員会)などの金融政策決定イベントです。さらには米大統領選、日本の総選挙の予測や結果、また今欧米でも発生している金融機関や企業破綻、そして、同時多発テロのような規模の大きな事故や紛争、大地震などの災害、最近では新型コロナウイルスなどの疫病も、市場に大きな影響を与えるイベントといえましょう。短期といっても、時間軸で考えると相応に幅はあります。
中期的な視点の例は、景気やインフレの大きなサイクル、それに伴う金融政策の一連の流れ、変更などが該当します。これらはいつも同じパターンの繰り返しではありませんが、一定のロジックを伴って、長い期間の中で何回か似たようなことが繰り返されるサイクルです。
ちなみにこのサイクルは、「コンドラチェフ」「ジュグラーサイクル」などの経済用語で説明されることがありますが、私はこれらをあまり意識したことがなく、特に2000年以降はほぼ、マネーの信用創造やレバレッジの多寡、クレジットのサイクルで捉えています。
おそらく昔は、技術革新や設備投資、在庫循環など「実体経済そのもの」が波を作り出していたのだと思いますが、近年IT技術の発展や、効率化とともに実体経済の波がかつてほどハッキリしなくなったことに加え、グローバルな経済規模の拡大に伴い中銀を含めた金融システムの信用創造、マネー供給量が拡大し、かつ、時に実体経済の動きと乖離し、それ自体が波を作っていることが原因と見ています。
特にわれわれ運用者にとっては、マネーの伸縮やクレジットサイクルを観察するほうが、実際の運用をするにあたっては、しっくりくるものなのだと思います。
そして長期的視点は、人口動態の変化や財政支出の拡大など、今となっては当たり前ですが、普段毎日の生活の中では変化に気づきにくい経済的な構造問題であり、大きな問題になってから注目を集めるものであるように思います。
●時代の転換期にある経済構造の変化に目を向ける
さらには、これら経済的構造問題は、歴史を振り返れば、時代の大きな変化の背景になっているように感じております。
もう少し補足すると、長期の構造変化の上に、大きなインパクトのある短期、中期のイベントが重なると、大きく世の中を変化させるきっかけになることがあるのではないかということです。
時代の転換期では、教科書などでは制度疲労や外圧、民衆の不満などが歴史を動かしたように解説されることがありますが、その裏では、実は諸問題と関連する経済的な大きな混乱がセットで発生しているように思います。
例えば幕末などでも、黒船が来て江戸幕府の政治が混乱し雄藩が力をつけ明治維新に至ったと、簡単にいえば、そういう図式で語られることが多いと思います。
ですが、...