●「行動経済学」は従来の経済学とどう違うか
今日は「行動経済学とマーケティング」というテーマでお話ししたいと思います。阿部誠です。
まず、「行動経済学」とは何か。最近よく聞かれる言葉です。これはもともと1980年ごろに、伝統的な経済学に心理学を導入して発展したといわれています。そのときに非常に大きな貢献をしたのが、カーネマンとトベルスキーという2人の心理学者です。のちにカーネマンは、その貢献として2002年にノーベル経済学賞を受賞しています。
さて、では“伝統的な経済学”とはどういうものか。伝統的な経済学では1つの仮定があって、その1つが「ホモ・エコノミカス(日本語では「経済人」と訳されます)」です。やや言葉が難しいように聞こえますが、「人は理に適った行動をする」という前提からさまざまな経済的な理論を導出し、実際の現象を説明する。こうなっているのです。
しかし、そこで仮定しているのは、例えば「人は理に適った行動をする」ということで、ものの値段が上がると人は買わなくなってくる。これは、いわゆる需要曲線という形で「価格が上がると需要が減る」というものが理に適った行動なのですが、実際のビジネスはどうでしょう。
あるアメリカの高級オーディオメーカーが、日本で売り上げを伸ばそうということで値段を下げたのです。すると、逆に売り上げは落ちてしまったという現象がありました。これはなぜか。
価格には3つほどの意味があるのです。1つは経済的な痛み。だから、値段が高くなればなかなか買いづらくなってしまう。これは、「ホモ・エコノミカス」の仮定に沿った価格の意味になります。
しかし、それ以外に、「価格が高いということは品質が高い」「価格は品質のバロメーターである」。こういった価格の意味もあるでしょう。あるいは、「価格が高いということはプレステージがある、ステータスがある」「なかなか普通の人には手が出せないから、プレステージがある」といった意味もあるでしょう。
したがって、単に「経済的痛みが価格である」という経済理論による説明では、実際のビジネスをうまく説明できない。こういった限界が出てきたということで、「では、なぜだ」となる。そこで、今言ったように、心理学の観点を入れることが実際の経済現象を説明する上で、あるいは予測する上で...