行動経済学とマーケティング
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「松」が鍵…オトリ商品によって起こる「極端の回避」とは
行動経済学とマーケティング(3)オトリ商品の罠とアンカリング効果
阿部誠(中央大学 大学院 戦略経営研究科 教授/東京大学名誉教授)
「オトリ商品の罠」という現象がある。寿司屋を例に挙げると、松竹梅という3つのメニューにおいて、オトリ商品の出し方を3つほど提示するのだが、そうすると、それぞれオトリになる商品があることによって、選択率が変わるというデータが上がってくる。今回は、行動経済学の「ヒューリスティックとバイアス」という手法を使い、「アンカリング効果」という心理学的な効果とオトリ商品の具体的な出し方を紹介する。(全6話中第3話)
時間:9分34秒
収録日:2024年4月8日
追加日:2024年6月20日
≪全文≫

●「オトリ」があることで人間は選択が変わる


 それでは、この後は主にマーケティングから3つの事例を使って、先ほどのいくつか紹介した理論や現象を説明したいと思います。

 まずはケーススタディ(1)です。ヒューリスティックとバイアスというお話を先ほど(前回)しました。ここではマーケティングの例ということで「オトリ商品の罠」、その心理学的な効果「アンカリング効果」と呼ばれるものを説明します。

 アメリカのマーケティングの研究者アリエリーが行った実験を紹介したいと思います。

 彼は自分の授業で学生に『エコノミスト』誌(週刊のビジネス雑誌)について、表にある2つの年間購読料のどちらを選びますかと訊きました。1つは「ウェブ版 $(ドル)59」、もう1つは「ウェブ版と印刷版 $125」。この2つの選択肢がある。その結果、68パーセントの学生は安いほうの「ウェブ版のみ」を選んだという結果が出ました。

 学生ですから、お金がそれほどない、あるいは印刷版がたまってきたら居住スペースがなくなるなどといったこともあるのでしょう。ということで、より多くの学生が「ウェブ版 $59」を選びました。

 アリエリーは、今度は別の授業で、3つの選択肢の中から『エコノミスト』の年間購読料としてどちらを選びますかということを訊きました。先ほどの2つの選択肢に加えて、「印刷版 $125」という3つ目の選択肢を加えて、この3つの中から選ぶというものです。その結果が、Study2の数字に表れています。

 案の定、「印刷版 $125」を選んだ学生は誰もいませんでした。これは当然であって、同じ125ドルで2番目の選択肢であれば、ウェブ版が無料で付いてくる。こういうことから、誰も「印刷版 $125」は選ばなかったのでしょう。

 ただ、ここで注目してほしいのは、最初の2つの選択肢の選択の割合が、先ほどのStudy1と逆転したことです。3つの選択肢を提示した場合には、より多くの学生が「ウェブ版と印刷版 $125」という値段の高いほうを選んだのです(84パーセント)。

 これが、「オトリ商品の罠」という現象です。この「印刷版 $125」が、いわゆるオトリです。この3番目の選択肢があることによって、2番目の選択肢である「ウェブ版と印刷版 $...

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