●取引の効用に関係する「3つの価格」
さて、3つ目のマーケティングのケーススタディということで、まずは次の状況を考えてみましょう。
あなたは夏の暑い日、ビーチで寝ころんでいます。友達が「ビールを買ってこよう」と提案しました。この近辺でビールを買えるところがおしゃれなリゾートホテルのバーしかなかったとき、あなたはいくら払いますか。あるいは、ビールを買えるところが古びた食品雑貨店だった場合、あなたはいくら払いますか。
おそらく多くの人は「おしゃれなリゾートホテルのバーでのほうが、古びた食品雑貨店よりも高い金額を払う」と答えると思います。
これは何を示しているかということを、行動経済学では「取引効用理論」と呼ばれるもので説明できます。実はこれも、リチャード・セイラーの提案した理論になります。簡単に紹介しましょう。
この理論に基づくと、効用あるいは取引の満足度は、「3つの価格」に影響されるといわれています。1つ目は「支払価格(p)」です。これは、実際に支払った価格によってその取引の満足度が変わってくる、たくさん支払えば満足度が下がる、ということです。
2つ目の価格は「等価価格」と呼ばれるもので、英語では「value equivalent(ve)」と呼んだりします。これは、商品からもたらされる価値を金銭に換えたもの、と解釈できます。
3つ目の価格は「内的参照価格(p*)」です。これは、消費者が製品価格の高低を判断するための基準価格です。内的(頭の中)にその基準価格が存在し、それは過去の経験や記憶などいろいろな知識から構築、形成されるものと考えられています。
実際の取引の効用は、この3つの価格によって変わってくる。先ほど言ったように、支払価格は低ければ低いほど満足度は上がります。一方、等価価格(商品からもたらされる価値)は高ければ高いほど満足度は上がります。それから、内的参照価格(基準価格)も高ければ高いほど「高いものを買えたのだ」ということで満足度は上がる。こう考えられます。
●同じ商品を同じ価格で買っても、状況により満足度が異なる
そして、この取引効用理論のいう「全体効用」は、2つの効用の和で構成されていると提案しています。1つ目が「...