●「気」「心」「力」「変」を治めることの重要性
その次の「是の故に朝氣は鋭く、晝氣<ちゅうき>は惰<おこた>り、暮氣は歸<かえ>る」ですが、いいことを言っています。そして「故に善く兵を用ふるものは、其の鋭氣を避け、其の惰歸<だき>をうつ。此れ氣を治むるものなり」と言っていますが、気を治める者、心を治める者、力を治める者、変を治める者、というように、4つの治め方をここで挙げてくれているのです。このようなところも、孫子の分かりやすさです。
まず、気を治めることが重要だと言っています。それは何かというと、この世には気の変化ということがあり、それを戦略にうまく活用することが重要だと言っているわけです。そういう意味で、朝の気は鋭いと言っているのは、夜十分に睡眠を取ってきて、全軍がこれから戦うと言っているのですから、それは気が鋭く、さあやってやろうという気持ちになっています。では昼(晝)はどうなのかというと、ちょっと惰<おこた>りの気になって、さらに暮れ時になると人間の心は、労働は昼で、夕方になるともう働くというよりも家に帰って食事をしたいというような里心がついてしまうわけです。軍隊といっても人間集団ですから、そういう人間の習性は逃れられません。
したがって、朝の気は鋭く、昼気はちょっと鋭さを失って、暮れてくると家へ帰りたくなるような状況になります。ですから、「善く兵を用ふるものは、其の鋭氣を避け、其の惰歸をうつ」ということは、敵を攻めるときは敵もこちらと同じように朝はやる気十分なので、それは避けたほうがいいわけです。ではどうすればいいかというと、睡眠時間をちょっと遅らせて、こちらは昼に起きるのです。敵はいつも朝起きていますから、昼気は惰りという状態で、さらにいえば、こちらは夕暮れ近くになってから起き上がって攻めるわけです。つまり、こちらは鋭気で向こうは惰気という状態を作れということです。これを「氣を治むるものなり」と言っているのです。
次の「治を以て亂<らん>を待ち、靜を以て譁<か>を待つ」ですが、この「治を以て亂を待ち」というのは、こちらはしっかり気持ちを治めて、理路整然として、それで撹乱戦術、つまり敵を撹乱して、敵が乱れてくるのを待つということです。それから「靜を以て譁」...