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正々堂々の敵は避けるべし…気・心・力・変を治める重要性

『孫子』を読む:軍争篇(5)4つの治め方と戦闘上の法則

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
戦いのポイントとして「気」「心」「力」「変」という4つを挙げ、それらを治めることの重要性を説く孫子。それぞれどのようなことなのか。そして、最後に戦巧者として「してはいけない」という戦闘上の法則を挙げて締めくくる軍争篇の最終話。まさに現代のマーケティング戦略に十分活用できる戦術が述べられているのだ。(全5話中第5話)
時間:10:04
収録日:2020/06/16
追加日:2023/12/18
カテゴリー:
≪全文≫

●「気」「心」「力」「変」を治めることの重要性


 その次の「是の故に朝氣は鋭く、晝氣<ちゅうき>は惰<おこた>り、暮氣は歸<かえ>る」ですが、いいことを言っています。そして「故に善く兵を用ふるものは、其の鋭氣を避け、其の惰歸<だき>をうつ。此れ氣を治むるものなり」と言っていますが、気を治める者、心を治める者、力を治める者、変を治める者、というように、4つの治め方をここで挙げてくれているのです。このようなところも、孫子の分かりやすさです。

 まず、気を治めることが重要だと言っています。それは何かというと、この世には気の変化ということがあり、それを戦略にうまく活用することが重要だと言っているわけです。そういう意味で、朝の気は鋭いと言っているのは、夜十分に睡眠を取ってきて、全軍がこれから戦うと言っているのですから、それは気が鋭く、さあやってやろうという気持ちになっています。では昼(晝)はどうなのかというと、ちょっと惰<おこた>りの気になって、さらに暮れ時になると人間の心は、労働は昼で、夕方になるともう働くというよりも家に帰って食事をしたいというような里心がついてしまうわけです。軍隊といっても人間集団ですから、そういう人間の習性は逃れられません。

 したがって、朝の気は鋭く、昼気はちょっと鋭さを失って、暮れてくると家へ帰りたくなるような状況になります。ですから、「善く兵を用ふるものは、其の鋭氣を避け、其の惰歸をうつ」ということは、敵を攻めるときは敵もこちらと同じように朝はやる気十分なので、それは避けたほうがいいわけです。ではどうすればいいかというと、睡眠時間をちょっと遅らせて、こちらは昼に起きるのです。敵はいつも朝起きていますから、昼気は惰りという状態で、さらにいえば、こちらは夕暮れ近くになってから起き上がって攻めるわけです。つまり、こちらは鋭気で向こうは惰気という状態を作れということです。これを「氣を治むるものなり」と言っているのです。

 次の「治を以て亂<らん>を待ち、靜を以て譁<か>を待つ」ですが、この「治を以て亂を待ち」というのは、こちらはしっかり気持ちを治めて、理路整然として、それで撹乱戦術、つまり敵を撹乱して、敵が乱れてくるのを待つということです。それから「靜を以て譁」というのは、冷静になっても音はカンカンとうるさい音を出したります。これも譁です。そのようにして敵を乱すわけですが、一見、何か敵が乱れてくるような状況を、「此れ心を治むるものなり」と言っています。敵を乱すということです。

 そして「近きを以て遠きを待ち、佚<いつ>を以て勞を待ち」ですが、つまり、こちらは戦場の近くにいて、それで遠くから敵軍を待っているという状態が一番いいと言っているのです。佚というのは安んじるという意味です。まだ疲れも知らないで十分にエネルギーがある状態を佚といいます。ですから、エネルギーがいっぱいにあるところで、敵軍が疲れてくる、労を待つということです。ですから、いろいろなところに伏兵を置いておき、あちらからも、こちらからも戦闘して敵を翻弄し、敵がくたくたになって主戦場に来るようにすることが重要なのです。

 それから「飽を以て饑<き>を待つ」というのは、こちらは十分に食料を得るようにして、相手を饑<う>えるようにすることです。兵糧攻めとか水攻めとはそういうことです。それで「此れ力を治むるものなり」と言っています。

 次は「正正の旗を邀<むか>ふる無かれ、堂堂の陣をうつ勿かれ。此れ變を治むるものなり」です。「正正の旗」というのは、正当な理由を持って世のため人のために戦うなどという、そういう軍隊は避けたほうがいいということです。(「堂堂の陣」は)堂堂として大義名分があるという軍隊のことで、そういうものを(迎え)撃ってはいけない。正々堂々、つまり正正の旗、堂堂の陣というのは避けろ。これは有名なところです。要するに、変化を治めるということで、敵の状態に即して変化しなければいけないということです。


●戦い巧者としてのふるまい方


 最後のところです。「故に兵を用ふるの法、高陵には向ふ勿かれ、丘を背にするには逆ふ勿かれ、佯<いつわ>り北<に>ぐるには從ふ勿かれ、鋭卒は攻むる勿かれ、餌兵は食ふ勿かれ、歸師は遏<とど>むる勿かれ、師を圍めば必ず闕<か>き、窮寇<きゅうこう>にはせまる勿かれ。此れ兵を用ふるの法なり」と言っています。こういうものは、こうしてはいけないということを、きちんと挙げてくれているわけです。

 まず、戦巧者、戦いが非常にう...
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