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気をつけろ!強行軍、第三の敵、毒まんじゅう…

『孫子』を読む:軍争篇(3)強行軍の法則と第三の敵

田口佳史
東洋思想研究家
情報・テキスト
「強行軍の法則」というものがある。無理をして日夜休まず行くと、全軍バラバラになってしまい、すると敵の虜になることにつながっていく。もう一つ肝に銘じなければいけないのは、「第三の敵」の存在である。目の前の敵ばかりに注意を払うのではなく、第三者の軍隊のことも意識しておく必要がある。第二次世界大戦で日本が劣勢の時にソ連が参戦してきたが、その教訓を忘れてはいけない。(全5話中第3話)
時間:09:24
収録日:2020/06/16
追加日:2023/12/04
カテゴリー:
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≪全文≫

●強行軍の法則――日夜休まず行くと全軍バラバラに


 そして「是の故に甲を卷きて趨<はし>り、日夜処らず、道を倍して兼行し、百里にして利を爭へば、則ち三將軍を擒<とりこ>にす」です。前に、輜重を捨てる、人も置いてきぼりにしてしまうとありましたが、もっとひどいのは、「早く早く」と言われても、重装備では行けませんので、「甲を巻く」というのは、どうしても装備を置いて、ひどいときにはそれを抜いて、手で持って走るしかないわけです。

 ですから、「甲を卷きて趨り、日夜処らず」は、日夜休まず行くということで、「道を倍して兼行し」というのは、倍の速度で行くということですから、そうすると100里もの距離をその状態で行った瞬間に、「三將軍を擒<とりこ>にす」とありますが、三将軍というのは、一番先に行っている先方軍がいて、その次に中を行く軍がいて、それから後軍の一番後、前・中・後というのが三軍でその三将軍のことです。そのまず全軍がバラバラ行くわけですから、敵からすれば全軍嵩にかかってどーっと来るのではなく、それもみんな走ってきて疲れ果て、ハーハー言っているような軍隊が来るので、敵にとっては簡単です。

 要するに、そのことを言っているのです。それは勝利のためにやる、有利のためにやるわけですが、そのようなものを当面の目標にしたら、全軍バラバラになってしまう。いってみれば、三将軍が捕虜になる、虜になるのです。

 そして「勁<つよ>き者は先んじ」というように、足が速くて肉体的に勝っている者は先に行ってしまうし、(「疲るる者は後れ」で、)弱い者はどうしても遅れる。さらに「其の法十が一にして至ればなり」ですが、つまり全軍の10分の1しか行くことができないということです。

 次が「五十里にして利を爭へば、則ち上將軍をたおす」で、一番先に着いて周りを見渡せば部下は誰も来ていない、将軍が1人でいる、という状況ですから、敵からすれば「待ってました」ということです。

 そして「其の法半ば至ればなり」というように、今度は半分しか行くことができず、これが「強行軍の法則」というものです。さらに「三十里にして利を爭へば、則ち三分の二至る」は、3分の2しか到達することはできないということです。

 そして「是の故に軍、輜重無ければ則ち亡び」といっているように、補給部隊がいなければ軍隊は簡単に滅びてしまいます。「糧食無ければ則ち亡び、委積<いし>無ければ則ち亡ぶ」で、食べるものがなければ亡び、委積は蓄えのことで、兵器や武器の蓄えもないのですから、これも亡びます。


●「諸候の謀」――常に第三の敵を意識する重要性


 次は「故に諸候の謀<はかりごと>を知らざれば、豫<あらかじ>め交はること能はず」です。ですから、「諸候の謀」というのは、敵軍の戦略はどのようになっていて、何をどうしようとしているのかを知らなければダメなのですが、敵軍ばかりではなく、自軍と敵軍が戦っているときに一番注意しなければいけないのは、第三軍となる第三者が、どちらかが弱まったのを見てどっと入ってくることです。

 先の世界大戦で、日本軍がとても弱まっているということを知った瞬間に、ソビエト軍が入ってきました。要するに第三者の軍隊は、そういうときにこぞってどっと参戦してきます。

 なぜかというと、勝利軍になれるからです。戦っていて、もうダメだと思ったら、必ず参加してくる軍隊があるわけです。遊びでやっているわけではありませんから、たやすく勝てる方法をみんな考えており、そういう意味で、アフリカのサバンナの猛獣などというのは、ちょっとでも弱みを見せたらすぐに襲ってきますから、死ぬ間際で頑張っているわけです。(そうして)バタッと倒れて死ぬのです。軍隊もまったく同じです。ちょっとでも弱みを見せたら、敵軍も「待ってました」となり、第3軍がどんどん押し寄せてきます。そういうことです。

 そういう意味で、「山林・險阻・沮澤<しょたく>の形を知らざれば」は、山林はとても戦いにくいところ、險阻は険しいところ、沮澤とは沼地ですから大変戦いにくいところ、それらを承知の上で戦略的に用いるということはあります。前に述べた、織田信長はどうして今川義元に勝ったのかというと、そのような山地を利用して、つまり「桶狭間」という狭間を利用して勝ったのです。

 そのようなものを利用すればいいのですが、何も知らないでやってしまうと、「軍を行<や>ること能はず」で、二進も三進も行かず、沼地などははまり込んでしまって戦うこともできません。引き返すことも進むこともできな...
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