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●ブランド価値は、商品が売れるための前提条件だ
次に、ブランド戦略について見ていきましょう。簡単にいえば、ブランド戦略とはブランド価値を高めるような企業活動だと考えてください。では、ブランド価値とは何でしょうか。私の調査では、ブランド価値を表す指標は少なくとも25個もあります。
例えば、有名なところではブランド認知度です。認知度とは、ブランドの名前がどれぐらい知られているかという程度を表します。ほとんど100パーセントの人がマクドナルドという名前を知っていますが、他方でドムドムバーガーはひょっとすると50パーセント程度の人しか知らないかもしれません。こうした認知度が高い方が、低いよりは良いでしょう。
ブランド価値を表す指標として、他にも連想というものがあります。マクドナルドと聞くと、例えばドナルド・マクドナルドというキャラクターや、シンボルになっているゴールデンアーチ、あるいは店の雰囲気といったさまざまなことを思い出します。さらに、知覚品質という指標もあります。これはブランドから連想される商品の品質を指します。
こうした指標で測ることのできるものが、「ブランド価値」と呼ばれています。ブランド価値は、商品が売れるための前提条件です。確かに、ブランド価値が高いからといって、必ずしも絶対に売れるということではありません。しかし、ブランド価値が低いよりは、ブランド価値が高い方が売れるための条件がそろっているといえるでしょうし、売れ続けるということもあるでしょう。
いわゆるロイヤルティーに関係しますが、高いブランドロイヤリティーは、その商品が売れ続けるための前提条件になっているため、ブランド価値を高めるということは重要です。Eコマースが発達してきた現代では、特にそうでしょう。
現代では、Eコマースでも他の流通でも、われわれが物を自由に選ぶ条件が、ますます満たされてきています。Eコマースが典型的ですが、場所や時間を問わず、好きな物を買うことができます。しかも、いろんなブランドから選ぶことができます。こうなれば、ブランドが知られている方が知られていないよりも、買われる確率はより高くなります。したがって、特に現代では、こうしたブランド価値を高める企業活動が非常に重要になってきているのです。
●普通の活動が、結果的にブランド戦略と関わっている
この図は、ブランド戦略の構造をピラミッドで表したものです。ブランド戦略の仕事の中身といっても、実はブランド戦略のみの仕事はほとんどありません。例えば、知財のようにブランド名を登録するといった、ブランド戦略特有の仕事が全くないわけではありません。しかしむしろ、企業の中で普通に行われている活動が、結果的に何らかのブランド戦略と関わっている場合の方が多いでしょう。
極端にいえば、立ち居振る舞いからそうです。例えば、販売促進のために販売店に配るのぼりを作るとしましょう。その際、ブランド価値を高めるためには、どのようなのぼりがいいのかを考えるでしょう。だとすれば、これもブランド戦略の一種です。
つまり、営業活動でも、販売促進活動でも、広告活動でも、商品の企画でも、あるいは経営の意思決定であっても、あらゆる活動がブランド価値を高めるか低めるかに関係している以上、毎日、会社の中で行っている一つ一つのアクションが何らかのブランド価値につながっていると考えるべきです。
●構想とイノベーションがブランドの根本に関わる
『ブランド戦略論』(有斐閣、2017年)では、ブランド戦略の構造を、経営・マーケティング・コミュニケーションの3層に分けて書いています。
経営の層では、どの市場で一体どういった商品やサービスを提供していくのかという最も基本的な問題や、あるいはそこにどのような経営資源を投入していくのかという意思決定を扱っています。マーケティングの層では、誰に対してどういう価値を、どのようにもたらすのかというマーケティングの活動を論じました。最後に、コミュニケーションの層では、何を誰にどのように伝えていくかというコミュニケーション活動を扱っています。
今回は経営の層の中でも、特に構想とイノベーションという2つのテーマについてお話します。これらはブランドの根本に関わる部分です。
ブランドの構想とは、英語でいえば「idea」や「inspiration」に当たります。一見、経営者の思い付きのように思われますが、しかし、それが後々になると、ある種のブランドに変わっていく場合があります。このようにブランドへと結実する、経営者の頭の中に思い浮かんだ信念や考え方を、「ブランドの構想」と呼びます。これがブランドを考える時に大事になってくるのです。


