●200年以上続いている長寿会社の半分以上が日本にある
川島 長続きさせていくためには、何が必要でしょうか。
田中 それは難しい問題です。とらやのように500年も続いているということは、大変なことです。私も長く続いている企業に関心があり、調べたことがあります。日本にはたくさんの老舗があります。200年以上続いている会社は、世界中で確か5,000件ほどあるのですが、そのうちの半分以上が実は日本にあるのです。
しかもその内訳の多くは、とらやのようなお菓子屋さんと、宿屋、旅館なのです。酒屋さんもあります。クイズみたいで申し訳ありませんが、世界で一番古い温泉旅館はどこにあるかご存じですか。
川島 全く知りません。日本にあるのですか。意外と知られていないということですね。
田中 日本にあります。1300年ぐらい続いている旅館で、ギネス記録に認定されています。山梨県の、南アルプスの麓にある西山温泉慶雲館という旅館です。つまり、長く続いていても、とらやのように偉大なビッグブランドになっているケースと、全くそうではないケースがあるということです。
●時代に適応するかどうかは、経営者の才覚による
田中 ただし、それでも何百年も続くためにはある種の条件があります。それが、お菓子、酒屋、旅館という業種のようです。
川島 どうしてでしょうか。
田中 おそらくこうした業界に大きな変動がなかったからだと思います。
川島 業界としてのイノベーションがあったわけではないということですか。
田中 そうです。特に慶雲館の場合、駅から車で1時間以上かかる南アルプスの山中にあるのですが、もともとは長い間、農家の人の農繁期の疲れを取る宿でした。だからこそ、戦争の動乱などに煩わされずに済んだのです。また、温泉は自然に湧くものですから、原料費があまりかかりません。低コストで運営できるというのも要因の一つでしょう。例えば、現在のIT企業が1300年も続くなんていうことは、到底考えられません。
ですから、長持ちするかどうかは、業界による効果が結構大きいのではないかと思っています。とはいえ、日本酒だってとらやだって、世間的、時代的な波には洗われてきたはずです。したがって、かなり単純化していえば、それは時代に適応したとしか言いようがありません。しかし、それだけで話が終わるとつまらないですから、どのように時...