●経済の中で価値はどのように生まれるのか
吉川 かなり昔のことですが、小宮山宏先生とは大学の会議の後などによく雑談させていただきました。その時、小宮山先生は専門が理系ですから、「人間が何をしてもエネルギーの総量は変わらないのに、経済のGDPはどんどん成長して数字が大きくなっていくというのは妙な話ですね。経済というのは面白いですね?」という、ファンダメンタルな質問をしていただきました。
この点こそ、まさに経済の根本に関わります。GDPは、いろんな人間の活動を価格で評価したものを全部足し合わせるということです。そもそも価格とは、人間が主観的に点数を付けている、それだけのものなのです。
ちなみに、経済学の歴史を振り返ると、「労働価値説」というものがありました。どこかで聞かれたことがあると思います。
小宮山 聞いたことがあります。
吉川 労働価値説とは、「モノにインプットされた労働の価値がモノの価値である」という考え方です。昔は、そういう考え方がありました。
しかし、今はそれを支持する人はいません。基本的には、先ほどいったように「人間が主観的に点数をつけているだけだ」という考え方が取られています。
小宮山 ケインズ(ジョン・メイナード・ケインズ)のいう「人気投票(美人投票)」と同じですか。
吉川 ケインズの指摘は、金融市場を対象としています。金融市場では、皆が転売するので、ファンダメンタル、つまり大元がないのです。ただ、モノの場合には、ある意味でファンダメンタルがあります。普通、われわれはモノを買えば、モノから何らかの効用を享受します。
小宮山 効用ですね。
吉川 お菓子を食べればおいしいと思う。それがファンダメンタルであり、これが大元にあります。例えば、それが100円なら買おうと思うという場合、普通そのお菓子を転売するということはありません。この場合には、モノの効用によるアンカーがあるわけです。その意味では、ケインズの美人投票とは、少し異なります。
●価値は主観的なもので、人間の幸福と一致しているわけではない
吉川 しかしながら、価値、つまり「何をどれくらい好むか」という基準は十人十色です。つまり、価値とは主観的なものです。
しかし、多くの場合、結局価格は一つに決まっています。その価格は主観的に決まるのですが、毎日のようにマーケットで投...