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「隠れた価値」にはお金の世界と相性が悪いものもある

経済社会と「隠れた価値」の行方(5)貨幣に代わるもの

対談 | 吉川洋小宮山宏
情報・テキスト
急速に変化し続ける現代の経済システムの中で、かつて良いものとされてきたさまざまな価値は姿を消しつつある。そうした「hidden value(隠れた価値)」の問題をなんとか解決したいが、その中には市場経済になじまないものもある。そこで求められるのは、そうした価値を評価できる新たな仕組みの構築である。対談後の質疑応答編。(全5話中第5話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫

●求められているのは隠れたニーズとそのサポーターとのマッチング


―― 今回のシリーズで非常に面白い議論が進められたと思います。ここでは、貨幣ではないものというとき、どのような形が有り得るのか、お伺いしたいです。これは貨幣を用いた例にはなってしまいますが、クラウドファンディングのような形で資金を調達するケースもあります。もしかすると、幸福堂のような本屋のケースもクラウドファンディングで支えることができたかもしれません。

吉川 それは一つあります。ただ、それは新しい貨幣をつくるという話とは別です。

―― あとは、ポイント制も一つの案としてあります。家電量販店などで家電を買うとポイントが付きます。また、貨幣ではないですが、先ほど小宮山先生が挙げられた例では、子ども食堂を通じて得た10ポイントを秋田に送り、その10ポイント分を介護に使うことができるというシステムというものもあります。そのような仕組みを、テクノロジーによって実現することもできると思いますが、そういったことも含め、今後の予見を教えていただけないでしょうか。

吉川 その点は、今回の議論の中で小宮山先生に投げかけさせていただいたところです。

小宮山 何かの価値のあるお店がつぶれそうなときに、それをサポートしたい人を探そうという仕組みが、クラウドファンディングです。私も、クラウドファンディングをしばしば利用したり、調べたりしているのですが、成功事例は少ないのです。取り上げられているのは成功事例だけです。

 もしかすると、重要なのはマッチングなのかもしません。「このようなものを助けましょう」というニーズと、「良いものは助けたい」というサポーターが、非常に分散していて、うまくマッチングされていないのかもしれません。

 今日、ITで最も成功している一つの企業は、マッチングで成功したのです。Uberは、タクシーに乗りたい人と乗せたい人とをマッチングしました。Airbnbもそうです。このようなマッチングの成否が鍵なのですが、今のシステムではうまく機能していません。やはりここにアイデアが必要なのです。


●分類と外部性は注目すべきポイントである


小宮山 これから必要とされるのは分類だと思います。hidden valueというものにはどういったものがあるのか。非常に粗い分類ですが、今それを進めているので、機会があればそちらを見ていただくのもいいでしょう。

 それから外部性という概念もあります。今まで、公害が外部性の例として挙げられてきましたが、これは負の外部性です。対して、hidden valueの場合は、プラス(正)の外部性のような話なのかもしれません。


●hidden valueは貨幣経済と相性が悪いが、貨幣の影響力は無視できない


吉川 hidden valueの話で一つ注意というか、落とし穴があります。マーケットエコノミー、あるいは価格の強みは全て数字だということです。

小宮山 そうですね。

吉川 これがもちろん最大の強みです。それが貨幣によって媒介されて、値段がつくわけです。全て貨幣のやり取りで行われるという仕組みになっています。

 それに対して、皆さんもよくご存じの通り、ある種の価値に関してはお金を用いてやり取りすることは、長い人間の歴史のなかでも忌避されてきています。今でもあると思いますが、お金で決済しようとすると、「おれは金のためにやったわけではない」と返答されることがあります。また、例えば、友人を助けるといったときに、その友人がお金を出してきたとすれば、普通であればそれを返して「お金でどうこうという話ではないでしょう」と断ることもあります。

 このように、hidden valueといわれるものの中には、お金の世界とは相性が悪いものもあるのです。

小宮山 そうですね。

吉川 こうしたものは、本性からして、マーケットエコノミーで処理されることを拒否するバリューですね。

小宮山 それはそうかもしれませんが、それではどうすれば良いのでしょうか。

吉川 そこをどうやっていくかが問題です。だから貨幣、あるいは普通のマーケットのお金の世界から切り離して整理していかなければいけないと思います。

小宮山 そうかもしれませんが、先ほども話があったように「たかがGDP、されどGDP」なのです。われわれからすると、貨幣の影響力は信じられないほど強いのです。「Gross National Happiness」や「Inclusive Wealth Index」、「Social Capital Index」など、いろいろな指標がありますが、結局用いられるのはお金を単位としたGDPのみなのです。それほど貨幣は強いものなので、私のようなエンジニアからすると、新しいhidden valueの問題を解決するためにそのシステムを使えないか、と思うのです。


●貨幣に換算し難い価値を現在の経済体系に取り込むのは難しい


吉川 そ...
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