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ある水準を超えるとHappinessと所得の関係はファジーになる

経済社会と「隠れた価値」の行方(2)所得とwelfare

対談 | 吉川洋小宮山宏
情報・テキスト
所得とwelfareの関係には限界があるのではないか。ある水準を超えると所得が上がってもwelfareが必ずしも増えることにはならないからだ。では、お金によって規定される現在の経済体系とは異なる、welfareやhappinessといった基準を取り入れた経済体系は実現できないだろうか。(全5話中第2話)
時間:09:11
収録日:2020/03/02
追加日:2020/05/08
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≪全文≫

●人間のwelfareと所得の相関関係はある水準を超えると弱くなる


吉川 「hidden Value(隠れた価値)」とGDPの関係でいえば、前回挙げた家庭の主婦のサービスの例があります。経済のGDPという表舞台からいえば、これはノーカウントです。ですが、これは生活において大きな役割を果しています。

小宮山 人間の一番のwelfareに関係する平均寿命とGDPは、かなり大雑把に比較すると相関するということですが、そうした相関関係は一人当たりGDPが1万ドル以上の場合には見られなくなるのではないでしょうか。

 何をwelfareとするかは難しい問題ですが、とにかく縦軸にwelfareを取り、横軸に一人当たりGDPを取ると、1万ドル程度までは強く相関していても、その先は相関関係が見えづらくなると思います。例えば、ルクセンブルクなどの一人当たりGDPが大きい国の人のほうが、一人当たりGDPが1万ドル程度の国の人よりも幸せだと感じているかというと、必ずしもそうとはいえません。GDPの平均値が上がると、「hidden value(隠れた価値)」としてのwelfareとGDPの相関関係が弱くなるということはあるのではないでしょうか。

吉川 それはあるかもしれません。小宮山先生はエコノミストとして重要な点を言い当てています。横軸に一人当たりの所得、縦軸にwelfare、例えば平均寿命を取ったとしても、関係はlinear(リニア、直線的)ではないのです。それはconcave(コンケイブ、凹型)の形を取ることがあります。つまり、はじめのうちは相関が強くて非常に縦に伸びていきますが、途中からその伸びは逓減していき、関係がフラットになっていきます。


●アメリカでもhappinessと所得の関係について早くから考えられてきた


吉川 平均寿命は一番明確な数字で、今お話したような関係を示すのですが、「Happiness(ハピネス、幸福)」という基準を持ち出すと、より関係はfuzzy(ファジー、不明瞭)になってきます。貧困のような状態は、「misery(ミゼリー)」と呼ばれる悲惨な状態です。そこで所得が上がれば、ミゼリーが消えていき、Happinessが増進するという点は明確です。小宮山先生がおっしゃる通り、1万ドルを超えてミゼリーを克服してくると、そこから先のHappinessは徐々に所得だけでは説明できなくなってきます。

 例えば、1950年代の終わりから1960年頃に、ガルブレイス(ジョン・ケネス・ガルブレイス)という有名な経済学者がいました。ハーバード大学の名誉教授です。メインストリームから煙たがられていて、数学などはいっさい用いませんでしたが、この人は『Affluent Society(ゆたかな社会)』という有名な本を書いていて、ベストセラーにもなっています。

 1960年くらいのアメリカはAffluent、つまり“ゆたか”でした。しかし、人々はその倦怠感に圧されていて、若い人もどこかやる気がなくなってきている状態でした。私の記憶ではその少し後に、われわれの世代はよく観たと思いますが、「卒業」という映画がありました。

小宮山 有名な映画ですね。

吉川 ご覧になったかと思います。われわれは観ています。

小宮山 同じ世代なのでね。

吉川 卒業という映画は、アメリカの名門の大学を出て、いよいよこれから社会に出て行くという若者が、今一つ何をすれば良いのか分からない、という筋書きです。まさに、ガルブレイスの『Affluent Society(ゆたかな社会)』にあるように、ハングリー精神の真逆という状況にある若者を描いている映画です。

 話は戻りますけど、ある水準を超えてくるとwelfare、もっといえばHappinessと、経済学的な狭い意味での「所得水準」の関係は、徐々にファジーになってくる、という指摘はおっしゃる通りだと思います。


●お金だけではなく豊かさという指標を用いる経済体系を作ることができないか


小宮山 そのような場合に人が何を求めるかというと、私は自己実現だと思います。実をいうと、「プラチナ社会」というものを提唱している時に、一つは地球が「Sustainable(持続可能)」であること、それから社会が「Affluent(ゆたか)」であること、と定義しています。ゆたかさも重要だろうと思って、適切な英語を探して「Affluent」を選びました。だから今、話を聞いて驚いたのです。

吉川 それは、良いではないですか。

小宮山 もう一つ、その中で人が自己実現を目指せるような社会を、「プラチナ社会」と定義しています。1万ドルを超えるまでは、人は食べるものへの欲求やモノを持ちたいという欲求を増大させていくと思います。しかし、その先になると、欲求・欲望は多様になります。そうしたものを追求してビジネスとなり、うまくいけばGDPに反映されていくという流れが形成されると、経済成長と人のHappinessというものが一致するように思います。

 場合によっては、それは「hidden Value(...
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