●人間のwelfareと所得の相関関係はある水準を超えると弱くなる
吉川 「hidden Value(隠れた価値)」とGDPの関係でいえば、前回挙げた家庭の主婦のサービスの例があります。経済のGDPという表舞台からいえば、これはノーカウントです。ですが、これは生活において大きな役割を果しています。
小宮山 人間の一番のwelfareに関係する平均寿命とGDPは、かなり大雑把に比較すると相関するということですが、そうした相関関係は一人当たりGDPが1万ドル以上の場合には見られなくなるのではないでしょうか。
何をwelfareとするかは難しい問題ですが、とにかく縦軸にwelfareを取り、横軸に一人当たりGDPを取ると、1万ドル程度までは強く相関していても、その先は相関関係が見えづらくなると思います。例えば、ルクセンブルクなどの一人当たりGDPが大きい国の人のほうが、一人当たりGDPが1万ドル程度の国の人よりも幸せだと感じているかというと、必ずしもそうとはいえません。GDPの平均値が上がると、「hidden value(隠れた価値)」としてのwelfareとGDPの相関関係が弱くなるということはあるのではないでしょうか。
吉川 それはあるかもしれません。小宮山先生はエコノミストとして重要な点を言い当てています。横軸に一人当たりの所得、縦軸にwelfare、例えば平均寿命を取ったとしても、関係はlinear(リニア、直線的)ではないのです。それはconcave(コンケイブ、凹型)の形を取ることがあります。つまり、はじめのうちは相関が強くて非常に縦に伸びていきますが、途中からその伸びは逓減していき、関係がフラットになっていきます。
●アメリカでもhappinessと所得の関係について早くから考えられてきた
吉川 平均寿命は一番明確な数字で、今お話したような関係を示すのですが、「Happiness(ハピネス、幸福)」という基準を持ち出すと、より関係はfuzzy(ファジー、不明瞭)になってきます。貧困のような状態は、「misery(ミゼリー)」と呼ばれる悲惨な状態です。そこで所得が上がれば、ミゼリーが消えていき、Happinessが増進するという点は明確です。小宮山先生がおっしゃる通り、1万ドルを超えてミゼリーを克服してくると、そこから先のHappinessは徐々に所得だけでは説明できなくなってきます。
例えば、1950年代の終わりから1960年頃に、ガルブレイス(ジョン・ケネス・ガルブレイス)という有名な経済...