●日本の高齢化社会の現状
引き続き、医療をめぐる環境、高齢化社会に焦点を絞って、お話ししていきたいと思います。では図表を見ながら進めていきます。
では、高齢化社会の現状についてお話しします。まず、平均寿命についてです。日本は幸いなことに、ほぼ世界一です。男性と女性で若干の差はありますが、非常に高い。ただ、見ていただくと分かるように急速に良くなっています。寿命が長いということは長生きするということですから、高齢者が増えるということにもつながっているので、ヘルスケアの分野にも大きな影響を及ぼしているのです。
同じような話になりますが、曲線の膨らみが段々大きくなっています。簡単にいうと、若いときからの人口である傾きがだんだん膨らんできています。これは男女共通です。これはどういう意味かというと、単に長生きするだけではなく高齢者が増えているということを示しています。早く死んでしまう人が多いと、この線の傾きは急になるわけです。
次の図表は、平均寿命の推移を表しています。日本の平均寿命はどんどん延びているということは先ほどお話ししましたが、他の国もそうなのです。ここに出ているのはカナダやアメリカ、フランス、イタリア、オランダ、ノルウェー、スウェーデンなど、先進国のものですが、全て平均寿命は延びています。ただ、日本の延び方は特に急なのです。図表の黒い線ですが、急に増えているというところが日本の特徴です。
●病気の性質の変化-感染症から生活習慣病へ
ここからヘルスケアの本題に入っていきますが、病気が変わってきました。寿命が短かった昔、病気で死ぬ場合には、必ずしも今のようにがんや、ここの統計には出ていませんが老衰といった病名で亡くなるのではなく、結核や肺炎といった感染症で死ぬことが多かったのです。それが、だんだんと環境が良くなってきて、細菌やウイルスの繁殖が減ってくるといった状況になると、病気の性質が変わってくるのです。これはいわゆる生活習慣病というものです。
生活習慣病というと、高血圧や糖尿病、高脂血症(今は脂質異常症といいます)、こういった病気が中心になります。もちろん、こういった病気では直接死ぬことはありませんが、これらが原因となって、まさに死の病気、すなわち脳血管障害や心筋梗塞、狭心症などの心疾患を起こして死んでしまうのです。これが少し前の時代のことです。
そこにがんが急速に増えてきます。がんが生活習慣病かというのはなかなか難しいところで、もちろんタバコを吸っているとがんになりやすいとか、欧米的な食生活、例えば肉食に偏ると大腸がんになりやすいとか、多少生活習慣の要素はあるのですが、先ほど話題にした高血圧や糖尿病のように、食生活が悪い、あるいは塩分が多いといったことがダイレクトに影響して、がんになるというものではありません。そういう点が少し違いますが、一応がんを生活習慣病として扱うことが多いのです。とにかく、このがんが死因として急速に増えており、それが現在にも至っているという傾向になります。
●脳血管疾患は減って、がん、肺炎が増えている
気を付けなければいけないのは、脳の病気が減っていることです。同じ血管の病気でも心臓の病気はそれほど減っていないのですが、脳血管の病気は減りました。一番の理由は、いい薬ができて血圧がコントロールできるようになったからです。ですから、薬の発展というのは、やはり人類の命、寿命が延びることに非常に貢献しているのです。後で薬の値段の話が出ると思いますが、非常に重要な点です。薬は大事ということです。
もう一つのポイントは、肺炎が増えてきていることです。実は、最新の統計では肺炎の死亡率はすでに脳血管障害を抜いています。ただ、これも少し難しいところがあって、肺炎には二通りあるということです。肺炎の中にも普通の肺炎と嚥下性肺炎があります。高齢者になると飲み込む力が落ちるので、いろいろと食べ物を飲み込んでしまうことになり、そうなると、食べ物ですからそこにばい菌が繁殖しやすくなって、そのような状況で肺炎になると、非常に治りにくいのです。それが嚥下性肺炎ですが、治療が非常に困難で死に至ることもあるのです。ですから、嚥下性肺炎の方が結構な割合を占めるので、死亡率として第三位になったということです。ということで今、気を付けなければいけないのは、従来からのがんと心臓の病気、脳血管の病気なのですが、肺炎も気を付けなければいけません。こういう状況に、世の中は変化してきているのです。
したがって、医療をヘルスケアビジネ...