社会現象は複雑な相互作用によって成り立っているため、予測するのは困難である。そんな中、今後AIによるディープラーニングが進めば、ミクロなデータ分析を蓄積させつつ、マクロモデルとしての重要な切り口を提供してくれるかもしれない。(全8話中第8話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
≪全文≫
●重要なのはデータか直感力かではなく、データ+直感力
―― 今後どのように世界の見え方が変わっていくのかということについて、AIと経済を組み合わせると、少し違ったものが見えてくる気がします。それぞれの本質の違いにも関わります。AIと経済学はそれぞれ何が得意で不得意なのかという点や、経済学のこれまでの分析のうち、実は根本的に違っていたのかもしれない点などが、少し見えてきますね。
柳川 そうですね。例えば、構造が変わったときに「これだ」と思える直感力は、現状のAIにはありません。そのため、どうAIを組み立てていったら良いのかも分からないのだと思います。しかし少なくとも、そうした判断をする材料として、AIが出してきた分析を使っている人と使っていない人だと、何が起こっているか分かっている前者のほうが、先を見通せますよね。
松尾 そうですね。おそらくAIとしては、結局ミクロのほうからしか攻め口はないと思っています。そのため、データをちゃんと集めて分析することを積み上げれば、道は開けます。例えば、あるお店の売上の予測を精度良く行い、それを積み上げていくことによって、経済全体の予測精度を上げることにつながっていきます。そこをマクロで進めたら、絶対勝てないですよね。
柳川 だから、データか直感力かじゃなくて、データ+直感力なのだろうと思います。
松尾 そうですね。
●AIの活用によって「直感力」も研ぎ澄まされていく
―― なるほど。そうすると、直感力もさらに研ぎ澄まされてくる可能性があるということですね。
柳川 そう思います。だから先ほどのお話のように、今まで気づかなかったパラメータが把握できるようになるとすれば、それはかなり大きな可能性だと思います。今まで見えてこなかったデータの重要性も分かってくれば、思想や直感に頼っていたこれまでよりも、数段レベルアップできるのではないかと思います。
松尾 あとは、柳川先生が何か少し言うと、経済が変わるというようなことが、あるかもしれないですね。
柳川 いや、そんなことはないでしょう。
松尾 それも予測はしづらいですよね。
●社会現象を予測することの困難さ
柳川 社会現象はある意味で、直接的な効果だけではなく、間接的な効果の積み重ねで動きます。ここが、社会現象の面白さや難しさだと思います。先ほどおっしゃったミクロの話は、デー...