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予測が困難な社会現象を読み解くためにAIに期待すること

社会はAIでいかに読み解けるのか(8)社会現象の予測

対談 | 柳川範之松尾豊
情報・テキスト
社会現象は複雑な相互作用によって成り立っているため、予測するのは困難である。そんな中、今後AIによるディープラーニングが進めば、ミクロなデータ分析を蓄積させつつ、マクロモデルとしての重要な切り口を提供してくれるかもしれない。(全8話中第8話)
※司会者:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:08:05
収録日:2020/03/03
追加日:2020/06/09
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≪全文≫

●重要なのはデータか直感力かではなく、データ+直感力


―― 今後どのように世界の見え方が変わっていくのかということについて、AIと経済を組み合わせると、少し違ったものが見えてくる気がします。それぞれの本質の違いにも関わります。AIと経済学はそれぞれ何が得意で不得意なのかという点や、経済学のこれまでの分析のうち、実は根本的に違っていたのかもしれない点などが、少し見えてきますね。

柳川 そうですね。例えば、構造が変わったときに「これだ」と思える直感力は、現状のAIにはありません。そのため、どうAIを組み立てていったら良いのかも分からないのだと思います。しかし少なくとも、そうした判断をする材料として、AIが出してきた分析を使っている人と使っていない人だと、何が起こっているか分かっている前者のほうが、先を見通せますよね。

松尾 そうですね。おそらくAIとしては、結局ミクロのほうからしか攻め口はないと思っています。そのため、データをちゃんと集めて分析することを積み上げれば、道は開けます。例えば、あるお店の売上の予測を精度良く行い、それを積み上げていくことによって、経済全体の予測精度を上げることにつながっていきます。そこをマクロで進めたら、絶対勝てないですよね。

柳川 だから、データか直感力かじゃなくて、データ+直感力なのだろうと思います。

松尾 そうですね。


●AIの活用によって「直感力」も研ぎ澄まされていく


―― なるほど。そうすると、直感力もさらに研ぎ澄まされてくる可能性があるということですね。

柳川 そう思います。だから先ほどのお話のように、今まで気づかなかったパラメータが把握できるようになるとすれば、それはかなり大きな可能性だと思います。今まで見えてこなかったデータの重要性も分かってくれば、思想や直感に頼っていたこれまでよりも、数段レベルアップできるのではないかと思います。

松尾 あとは、柳川先生が何か少し言うと、経済が変わるというようなことが、あるかもしれないですね。

柳川 いや、そんなことはないでしょう。

松尾 それも予測はしづらいですよね。


●社会現象を予測することの困難さ


柳川 社会現象はある意味で、直接的な効果だけではなく、間接的な効果の積み重ねで動きます。ここが、社会現象の面白さや難しさだと思います。先ほどおっしゃったミクロの話は、データから直接起きている現象や起き得る構造がダイレクトにつながります。それに対してマクロ構造が難しいのは、多次元的で相互依存関係に支えられているという点です。例えばこちら側をちょっと押したときに最終的なところがどう動くかが、単純なモデルではなかなか予測不可能なのです。先ほどのような定常的、安定的な構造を持っていないものが積み重なっていくと、最終的に出てくるアウトプットがどうなるかは、相当予測が難しいですね。

松尾 気候変動などは、やはり多数パラメータ系のモデルを使わないと、おそらくモデル化できないし、そこに対する人間の理解の限界をきっちり意識しないと、意思決定できないのではないかと思っています。ともあれ、気候変動は非常に重要なトピックなので、もしかしたらAIがなんらかの形で大きく役に立てる可能性があるトピックではないかなという気がします。


●マクロモデルをいかに組み上げていくか


柳川 そうですね。今の話でちょっと思ったんですが、経済は結局、ミクロな構造における複雑な相関関係の積み重ねでマクロの動きが決まってくるわけですね。そのため、多くの人がミクロの構造の積み重ねを精緻に作りあげ、マクロモデルを作ろうとしてきました。これを本当に精緻にできれば良いのですが、逆にそれができないとすると、細かいところを捨象して、マクロの大きな動きだけを1つの構造体として見たほうが良いのかもしれません。細かいところでは、実は違うことが起きているのかもしれませんが、大きな構造体としては安定的であるかもしれないからです。

 先ほどの気候変動の話も同様です。確かに気候変動に与える影響は大きく、いろいろな人が関わっています。しかし、ざっくり大きな大気の動きを見ると、世の中の法則が見えてきます。実は、ケインズが考えたいわゆるマクロ経済学も、どちらかといえばこうした話に近いのです。みんなミクロの積み重ねで考えていたのですが、そうではなく、新しいマクロ的なものの見方のようなものをざっくり見ている理論モデルが必要ではないかということで、ケインズが出てきてマクロ経済学が出来上がりました。

 しかし、そこは厳密ではないよねということで、その後何十年間かミクロの積み上げをしてきました。改めて今のような話を伺うと、そうしたミクロの積み上げではないマクロ構造の、実はマクロ的であるとしても精緻なデータが集まってく...
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