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地域研究のキークエスチョンはどのように設定されるのか

国際地域研究へのいざない(8)質疑編~地域研究とコロナ問題

島田晴雄
東京都公立大学法人理事長/テンミニッツTV副座長
情報・テキスト
これまでイスラエル、インド、幕末から明治維新にかけての日本を地域研究した成果について講義を行ってきたが、どの講義にもキークエスチョンが設定されていた。島田晴雄氏によれば、キークエスチョンはわれわれ自身が直面している問題意識から設定されるという。そのため、他国の事例から現在のわれわれに必要となる教訓を引き出すことができる。多角的なアプローチを用いて、他国の事例から重要な知見を引き出す地域研究の視点は、コロナウイルスへの対応に苦慮している現代のわれわれに特に必要なものだといえよう。(全8話中第8話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:11:44
収録日:2020/04/07
追加日:2021/01/02
≪全文≫

●キークエスチョンは自身の身近な問題意識から設定される


―― これまで地域研究の例として、イスラエル、インド、そして明治維新の歴史を挙げていただきました。それぞれの話のポイントとして、キークエスチョンが設定されていたと思います。その問いに収斂させるように、さまざまな研究を積み重ねていると見受けられました。そもそも、このキークエスチョンはどのような発想に基づいて設定されるのでしょうか。

島田 おおもとにあるのは、われわれ自身が直面している問題です。われわれの国が抱えている問題を通してみて、「この国はどこが面白いんだろう」と考えます。そこからキークエスチョンが自然に浮かび上がってくるのです。

 例えば、イスラエルに関しては、当然高いレベルの技術開発に焦点が当たります。インドに関しては、IT産業の発展が目を引くことに加えて、おそらく近いうちに中国をしのぐ国になるという事実があります。この国が世界のリーダーになるのであれば、アメリカがリーダーの役割を務めていた時に、われわれが懸命にアメリカを研究したように、今からインドについて研究しておく必要があると感じます。

―― やはり今の日本に対する問題意識から出てくるものなのですね。

島田 日本の将来に対する問題意識ですね。そこから設定されるのではないかと思います。

―― 例えばイスラエルでは、イノベーションを、キークエスチョンとして設定しました。これを深掘りする中で、地域構造や社会構造、歴史背景、地政学、国際関係、技術、思想、宗教、人物、教育など、実に多様な要因が挙げられました。

島田 多様な要因が挙げられますが、やはりイスラエルの場合には、他の国にはない危機感が技術開発の原動力になっていることは、さまざまなことに目を配るとすぐに分かります。そうなると、その危機感の背景を知る必要が出てきます。彼らの危機感の背景を知るには、2000年以上の歴史を遡らなければなりません。こうした点が、地域研究の面白さではないでしょうか。

―― そうですね。先生は、キークエスチョンを、ピンポイントで設定されますよね。今おっしゃったように、イスラエルの技術開発の背景にあるのは危機感だという指摘も、まさしくキーポイントです。

島田 キーですね。

―― こうした点を見つけるのは、難しいのではないでしょうか。どのようにキークエスチョンを設定するかという点は、重要なポイントだと思うのですが。

島田 それこそが、総合研究としての地域研究の面白さではないでしょうか。さまざまなことを知らなければ、危機感というポイントに集約することはできません。

 他にも、インドを考える場合に、急速な発展は人の目をひきますが、やはり宗教が非常に悩ましい問題として存在していることは、さまざまな観察を通じて見えてきます。こうした問題を乗り越えられるか、世界も見ています。こうした問題を抱えたままであれば、リーダー国になるのは難しいでしょう。

―― なるほど。やはり、宗教や地政学、歴史などを通じて総合的に分析するからこそ、浮かび上がってくるものもあるのですね。

島田 そうですね。

 また、幕末・維新に話を移すと、植民地化されずに、あのような展開を遂げた国は世界でもありませんでした。案外、気づいていない人が多いのですが、実は当時の地政学的な国際圧力は非常に大きいものでした。一歩間違えれば、完全に植民地になっていたでしょう。実際にそのような運命を辿った国が、東アジアにも多くあります。こうした圧力を受け止めて、国内で内戦をしながら、なおかつ植民地にならなかった理由は、ひとえに大変な人材力にあると思います。実際に、幕府側にも薩長側にも、学者にも、そうそうたる優れた人材がいました。おそらく世界でもめずらしいのではないかと思います。こうした分析を通じて、これからの日本の課題が見えてきます。

―― いかにそのような質の高い人材を育てるかということですね。

島田 そうだと思います。まさに教育ですよ。

―― その人材に求められる能力を提示することも、今、先生がおっしゃったような地域研究に求められている役割だと思います。設定したキークエスチョンの答えが何なのか、いち早く見抜かなければならないですよね。

島田 丁寧に追いかけていくと、見えてくるのです。

―― 追いかけることが大事なわけですね。

島田 司馬遼太郎が書いたような英雄や、権力を握った人たちはもちろん重要です。しかし、川路聖謨や林大学のように、これまであまり注意を向けられてこなかった意外なところに、優秀な人材がいることもあります。福澤諭吉や陸奥宗光もそういった人たちです。こうした発見も、層の厚さを感じて面白いのです。

―― こうしたエピソードを追いかけていけばいくほど、見えてくるものがある...
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