●アメリカ、中国に次ぐ経済大国としての道を歩んでいるインド
次にインドについて考えてみたいと思います。
インドについて日本だけでなく世界中が関心を持っているのは、IT立国としての急速な発展です。インドの人口は13億人で、間も無く中国を追い抜くといわれています。しかも、まだまだ人口構成が若いのです。経済発展の最大の要因は人口ですから、このような傾向が続けば、やがてインドは第3の強力な経済国家になるかもしれません。
これまでの世界を仕切っていたのはアメリカです。それに対して、中国が覇権を持とうという動きを示しており、覇権争いが起こっているのです。インドは今から20年、30年後には、この両国に比肩する第3の強力な経済として存在するかもしれません。したがって、われわれは今からインドについて学んでおく必要があるのです。こうした背景が、インドという国を研究する共通のモティベーションになっていると思います。
IT立国として成長の立役者は、インド南部にあるバンガロールという最先端都市です。シリコンバレーの下請けとして、急速に発展しました。ところが、下請けを続けるうちに、さまざまな技術を身につけ、最近では自己開発ができるようになり、とうとう技術開発水準でシリコンバレーに肩を並べるようになりました。しかも、これが起点となって、インドの各地の主要都市が、次から次へとITの産業都市に変化していきました。
インドには13億人の国民がいる上に、もともと数学が強い民族性だといわれています。したがって、超優秀な人材を大量に調達できるのです。アメリカのMITを擬してつくったIITと呼ばれる世界最高水準の大学が、インドには23校あります。これらの大学から、1年間に合計で9000人程度の学生が卒業するのですが、彼らは世界の諸国から見ると垂涎の的です。こうした理由で、アメリカやヨーロッパ、中国、韓国の企業が、バンガロールを中心にインドに大量に進出しています。ですので、バンガロールはアメリカのシリコンバレー、中国の深センに次ぐ、世界のデジタルトランスフォーメーションの中心になる可能性があります。可能性ではなく、すでになっているといっても過言ではないでしょう。
●インドはリーダー国としての資質を身につけていく必要がある
この国が世界のリーダー国となるかどうかは、キー・クエスチョンです。平均年齢25歳の13億人の人口を持ち、膨大な人口ボーナスの可能性があります。今から15年経過した、2035年頃には、GDPで現在の中国に並ぶだろうといわれています。人口ボーナスの恩恵をもっと受ければ、やがて米中を超える可能性もあるかもしれません。このようにして超大国となったインドが、世界のリーダー国の役割を務めるか、非常に関心があります。
アメリカの例を見てみましょう。第二次世界大戦後、アメリカ以外の国々は戦場で甚大な被害を受け、非常に疲弊しました。当時のアメリカは、世界のGDPの半分以上を担っていましたが、見回してみると世界中がボロボロになっていました。ボロボロになった国々が発展しなければ、アメリカの発展もないという、大変崇高な考え方を当時の政権は持っていました。その結果、世界の協力体制を作ろうというイニシアティヴが生まれたのです。
政治的には、国際連合を創設し、本部をニューヨークに置きました。経済的には、世界銀行やIMF、世界貿易機関などをアメリカが中心となって創設しました。そして、同盟国を増やし、安全保障体制を多角的に形成して、世界の戦争を抑止させる体制を作りました。戦争は、アメリカだけが乗り出すので結構という論理です。そして、積極的な援助によって、世界の貧困が急速に減少していきました。確かに、アメリカだけは毎年のように戦争に関わっていますが、アメリカ以外の国はあまり戦争に乗り出していません。
それに対して、中国が急速に追い上げてきました。データ経済の時代では、中国のような大きな人口は、ビッグデータを用いたディープラーニングなどを行う上で、大きな強みとなります。その中国の後を、莫大な人口と多様性とIT技術を誇るインドが追随していくという構図です。
インドが世界のリーダー国になるのであれば、われわれは今の段階からインドを勉強しておく必要があります。また、インドもリーダー国になりたいのであれば、それだけの世界貢献の資質を持った方が良いでしょう。
●モディ首相の指導の下、トップダウンで改革が進められている
現在のインドに話を移しましょう。2020年現在、首相を務めているナレンドラ・モディ氏は、非常に下層のカースト出身です。一所懸命努力して、出世してきました。彼は若かった時に、ヒンドゥー青年団(RSS、民族奉仕団)という、急進的なヒンドゥー教団体に入り、熱心なヒンドゥー主義者になりました...