「新しい資本主義」の本質と課題
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再分配には限界が…もう1つ大事なこととは
「新しい資本主義」の本質と課題(3)再分配と「独占力の行使」の問題
柳川範之(東京大学大学院経済学研究科・経済学部 教授)
日本では今、再分配の議論が盛り上がりを見せている。格差が拡大する中で再分配は大切だが、一方で日本全体として全員の所得を増やすための政策も必要だ。そこで気になるのは賃上げの問題と、企業における「独占力の行使」という問題だ。これらをどう考えればいいのだろうか。(全6話中3話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
時間:9分06秒
収録日:2021年11月22日
追加日:2022年1月27日
カテゴリー:

●再分配の議論とその注意点


―― 現在、いわゆる再分配の議論もあちらこちらで聞かれるようになりました。今この時代に再分配をすることになると、具体的にはどういうことに注意して行っていけばよいのでしょうか。

柳川 再分配となると、一度得たものをもう1回配り直す形になります。そうすると、やはり税等で徴収したものを補助金や寄付金、あるいは減税などで戻すことになります。

 税や補助金を中心とした再分配で最終的な所得分布を考えるのか。それとも、もともと稼げる分を、誰がどの程度稼げる世の中にしていくのか――。これは、競争政策あるいは法的な規制などによってもずいぶん変わってきます。だから、政策のあり方と考えるときには、税・補助金を中心とした再分配だけではなく、もともと稼ぐ部分を誰がどのように行うかという、そのルールもしっかり考えていくのが建設的だろうと思うのです。

―― ちょうど今、「所得倍増」のような言葉が世間に踊ったりしていますが、やはり再分配よりも、どう稼いでいくか、あるいは従業員にどう賃金を払っていくかという発想が大事になるのでしょうか。

柳川 そうですね。やはり再分配でできることには限界があります。またお金を一旦政府に入れて、また政府から国民の誰かに戻していくという過程には、場合によっては無駄が発生しやすい。その意味でも、そもそもの稼ぐ部分で、どのくらい稼げるようにしていくかということが大事です。

 もう1つは、誰かの取り分を減らして誰かの取り分を増やすよりは、日本全体として全員の所得を増やす、全員がそれぞれもっと稼げるようにしていくというのが目指すべき方向だと思います。今、潜在成長率がずいぶん下がっていると言われている中で、小さなパイを誰とどうやって分け合うかを考えるよりは、全体のパイをどれだけ大きくしていくか、その中でそれぞれの立場の人がどうやってより稼げるようにしていくかということを考えるのが王道でしょう。


●賃上げの問題と付加価値生産性


―― もう1つ、最近特に日本において言われるのが、労働者に対する賃上げのペースが遅すぎるのではないかということです。企業の収益は上がっているのに、なかなか賃金に反映されない。これはなぜなのでしょうか。

柳川 2つの側面があると思います。1つは、それぞれの人たちが、新しい技術革新、新しい経済環境の中で能力アップを図っていくこ...

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