●ロンドンオリンピック・パラリンピック後のイギリス経済
ただ、諸外国のオリンピック・パラリンピック後の動きを見ると、常にオリンピック・パラリンピックの後は経済が低迷するのかというと、必ずしもそうではない、ということにも注目すべきだと思います。
1つの事例としてよく取り上げられるのが、ロンドンオリンピック後のイギリス経済です。簡単にいうと、ロンドンオリンピック後のイギリス経済は、いわゆる海外からの観光客が途絶えることが少なく、結果的にはそれが景気を下支えする非常に重要な役割を果たしてきたといわれています。
これはどういうことが起こったかというと、オリンピック・パラリンピックの時期は当然多くの人がイギリスに来たがったわけですから、その分ホテル代は高くなりますし、混雑します。あるいは、航空料金もその時期は高くなる。一方、オリンピック後は、どちらかというと飛行機やホテルの空きが増えていく時期になりますから、料金も下がってきます。そこで、オリンピック・パラリンピックをテレビで見たような人たちも含め、そうした状況を利用してむしろ旅行者が増えたのです。
もちろん、オリンピックを契機にロンドンの街づくりだとか、いろいろなイベントも開催されるようになってきたので、いわば観光地、訪問先としても魅力が増しているということだろうと思います。
●オリンピック・パラリンピックを海外への発信の機会を捉える
日本についても、オリンピック・パラリンピックはもちろん世界に向けて、日本、東京の魅力を発信する最大のチャンスであるわけです。その魅力を発信した結果として、海外からいろいろな形で人が来るということで、オリンピック・パラリンピック後にどれだけ回収できるか、あるいはそれに向けた動きができるか、というのが結構重要な話になります。
インバウンドが日本の経済にとって非常に重要であるというのは、別にオリンピック・パラリンピックに限った話ではなく、4~5年前、あるいはもっと前から、重要な政策として掲げられてきて、それなりの成果を挙げてきたわけです。これがオリンピック・パラリンピック後も、むしろ積極的に展開するようなしかけが必要ですし、オリンピック・パラリンピックもそのための1つのプレゼン(宣伝)というか、海外への発信の機会と捉えればいいだろうと思います。
●供給サイドの伸びが非常に重要
もう1つ、中長期的な経済の流れを考えるときに非常に重要なのは、前回もいったようにかなり努力して需要を喚起してデフレから脱却したにもかかわらず、供給サイドがなかなか伸びていかないということです。供給サイドが伸びていかない中で、何かの理由で世界景気だとか、あるいはオリンピックのようなイベントの後の反動というような形で需要が大きく落ちると、経済に非常に大きなマイナスの影響が及ぶと考えられます。
そうすると、根本に戻って何が重要な鍵になってくるかといえば、供給サイドでの日本の経済の伸びをどうやってつくっていくかということになります。もともとのアベノミクスでいうと、「3本目の矢」の成長戦略に近いところが真価を問われるだろうと思います。
●政策と企業努力で生産性を上げていくべき
この分野において難しいのは結局、政府にできることには限界があるということです。金融政策や財政政策で需要を喚起するという意味では、ガバメント・リーチの範囲にあるのですが、実際に生産性が上昇していくようなことが起こるためには、企業が積極的に研究開発への投資や設備投資をしたり、あるいはM&Aが活性化して生産性が伸びるような産業の構造変化が出てきたり、というようなことが問われるわけです。
政府はそこに間接的に、補助金だとか規制緩和という形で影響を与えることはできるのですが、最後はやはり企業が動かないことにはどうにもならないのです。比喩的にいえば、馬を水場に連れていくことはできるかもしれないけれども、実際に馬が水を飲まないとどうにもならない、ということです(「馬を水辺に連れていくことはできても、馬に水を飲ませることはできない」ということわざ)。
そういう意味では、すぐに成果が出るかどうかという議論はいろいろあるのですが、やはり企業の生産性が上がるような、例えば賃上げへの努力を続けていくとか、またはM&Aを活性化するような税制を検討するとか、あるいは企業にとって投資をしないとなかなか生き残れないといった環境をしっかり社会で共有していくとか、いろいろな努力を積み上げていくことが非常に重要だろうと思います。
2012年に安倍内閣が始まった時に、アベノミクスの「1本目の矢」(金融政策)と「2本目の矢」(財政政策)は先ほどお話ししたようにすぐに動き出したのですが、「3本目の矢」(成長戦略)もいろ...