オリンピック後の経済を考える
この講義の続きはもちろん、
5,000本以上の動画を好きなだけ見られる。
スキマ時間に“一流の教養”が身につく
まずは72時間¥0で体験
景気の谷がオリンピック後にあるとすれば、どうすべきか
オリンピック後の経済を考える(1)需要落ち込みへの懸念
伊藤元重(東京大学名誉教授)
2019年現在、アベノミクスの成果もあり需要サイドはそこそこ安定しているといえるが、潜在成長率の低迷による供給の伸び悩みが日本経済の大きな課題だ。この状況下で多くの人が懸念しているのは米中貿易摩擦の影響、そして2020年東京オリンピック・パラリンピック後の需要の落ち込みである。需要が落ち込んだ場合、財政政策で景気を刺激する必要があるが、安易な取り組みにならないよう注意が必要だと伊藤元重氏は指摘する。(全2話中第1話)
時間:8分25秒
収録日:2019年10月31日
追加日:2019年11月27日
カテゴリー:
≪全文≫

●日本経済の大きな課題は潜在成長率の低迷


 今日は足元の日本経済の状況から、この先の中期的な動きについてお話ししたいと思います。

 ご案内のようにアベノミクスが始まったのが2013年で、2019年現在までおよそ7年たっているわけで、その間にある種の達成感の部分と、それからなかなかうまくいかないのではないかという部分が、非常に明快になってきたと思うのです。例えば、GDPは大幅に増えていて、これが雇用だとかあるいは株価とか、企業の収益に反映されているわけです。それは安倍内閣が出てくる前の時期のレベルとは随分違った状況だろうと思うのです。

 ところが、いろいろな数字に出てくる、いわゆる経済の高低にもかかわらず、多くの人が違和感を持っているということの背景として、日本の成長率が上がっていかないことが挙げられます。これには単に足元の成長率が上がっていかないということだけではなくて、いわゆる潜在成長率という数字が非常に低いことも含まれます。そこは1パーセントを切るような数字で推移しているのです。

 さらに、その潜在成長率の範囲を見てみると、潜在成長率の一番重要な要素であるはずのいわゆる全要素生産性(つまり生産性の伸び)の伸び率がだんだん低くなってきています。ですから、将来を見た場合、日本の経済が今後、順調に拡大していくのは難しいということを、専門家のみならず一般の方々も感じているわけです。

 これが、例えば企業が投資をするときに、非常に消極的にならざるを得ない要因にもなっているわけですし、国民一般の側でも何かあったら財布のひもを締めるというような状況になりかねないということです。


●需要はある程度持ち直したが供給が伸びない


 これは何が起きているのかというと、これまでもテンミニッツTVの中でお話ししたかもしれませんが、マクロ経済を一番基本で見るためには、需要と供給の両サイドから見ていく必要があるわけです。需要を見ていくときには消費とか投資、外需というものを見ていくわけですが、簡単にいうとデフレ経済になった10年前、あるいは8年前というのは、需要が壊れていました。ですから、デフレの中でなかなか消費が伸びない、経済が低迷していたのです。

 そこで、アベノミクスが取り組もうとしたことは、この壊れた需要をなんとか建て直すということでした。そのため、多少リスクを取っても、大幅な...

スキマ時間でも、ながら学びでも
第一人者による講義を1話10分でお届け
さっそく始めてみる
「政治と経済」でまず見るべき講義シリーズ
お金の回し方…日本の死蔵マネー活用法(1)銀行がお金を生む仕組み
信用創造・預金創造とは?社会でお金が流通する仕組み
養田功一郎
緊急提言・社会保障改革(1)国民負担の軽減は実現するか
国民医療費の膨張と現役世代の巨額の「負担」
猪瀬直樹
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
習近平中国の真実…米中関係・台湾問題(1)習近平の歴史的特徴とは?
一強独裁=1人独裁の光と影…「強い中国」への動機と限界
垂秀夫
ポスト国連と憲法9条・安保(1)国連の構造的問題
核保有する国連常任理事国は、むしろ安心して戦争できる
橋爪大三郎
財政問題の本質を考える(1)「国の借金」の歴史と内訳
いつから日本は慢性的な借金依存の財政体質になったのか
岡本薫明

人気の講義ランキングTOP10
平和の追求~哲学者たちの構想(1)強力な世界政府?ホッブズの思想
平和の実現を哲学的に追求する…どんな平和でもいいのか?
川出良枝
熟睡できる環境・習慣とは(3)睡眠にいい環境とお風呂の入り方
布団に入る何分前がいい?入眠しやすいお風呂の入り方
西野精治
葛飾北斎と応為~その生涯と作品(2)『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏への道
『富嶽三十六景』神奈川沖浪裏のすごさ…波へのこだわり
堀口茉純
中国共産党と人権問題(1)中国共産党の思惑と歴史的背景
深刻化する中国の人権問題…中国共産党の思惑と人権の本質
橋爪大三郎
何回説明しても伝わらない問題と認知科学(1)「スキーマ」問題と認知の仕組み
なぜ「何回説明しても伝わらない」のか?鍵は認知の仕組み
今井むつみ
定年後の人生を設計する(1)定年後の不安と「黄金の15年」
不安な定年後を人生の「黄金の15年」に変えるポイント
楠木新
『貞観政要』を読む(1)長期政権を目指す者の必読書
北条政子も愛読した長期政権のバイブル『貞観政要』
田口佳史
エネルギーと医学から考える空海が拓く未来(1)サイバー・フィジカル融合と心身一如
なぜ空海が現代社会に重要か――新しい社会の創造のために
鎌田東二
「重要思考」で考え、伝え、聴き、議論する(1)「重要思考」のエッセンス
重要思考とは?「一瞬で大切なことを伝える技術」を学ぶ
三谷宏治
プロジェクトマネジメントの基本(1)国際標準とプロジェクトの定義
プロジェクトマネジメントとは?国際標準から考える特性
大塚有希子