●日本経済の大きな課題は潜在成長率の低迷
今日は足元の日本経済の状況から、この先の中期的な動きについてお話ししたいと思います。
ご案内のようにアベノミクスが始まったのが2013年で、2019年現在までおよそ7年たっているわけで、その間にある種の達成感の部分と、それからなかなかうまくいかないのではないかという部分が、非常に明快になってきたと思うのです。例えば、GDPは大幅に増えていて、これが雇用だとかあるいは株価とか、企業の収益に反映されているわけです。それは安倍内閣が出てくる前の時期のレベルとは随分違った状況だろうと思うのです。
ところが、いろいろな数字に出てくる、いわゆる経済の高低にもかかわらず、多くの人が違和感を持っているということの背景として、日本の成長率が上がっていかないことが挙げられます。これには単に足元の成長率が上がっていかないということだけではなくて、いわゆる潜在成長率という数字が非常に低いことも含まれます。そこは1パーセントを切るような数字で推移しているのです。
さらに、その潜在成長率の範囲を見てみると、潜在成長率の一番重要な要素であるはずのいわゆる全要素生産性(つまり生産性の伸び)の伸び率がだんだん低くなってきています。ですから、将来を見た場合、日本の経済が今後、順調に拡大していくのは難しいということを、専門家のみならず一般の方々も感じているわけです。
これが、例えば企業が投資をするときに、非常に消極的にならざるを得ない要因にもなっているわけですし、国民一般の側でも何かあったら財布のひもを締めるというような状況になりかねないということです。
●需要はある程度持ち直したが供給が伸びない
これは何が起きているのかというと、これまでもテンミニッツTVの中でお話ししたかもしれませんが、マクロ経済を一番基本で見るためには、需要と供給の両サイドから見ていく必要があるわけです。需要を見ていくときには消費とか投資、外需というものを見ていくわけですが、簡単にいうとデフレ経済になった10年前、あるいは8年前というのは、需要が壊れていました。ですから、デフレの中でなかなか消費が伸びない、経済が低迷していたのです。
そこで、アベノミクスが取り組もうとしたことは、この壊れた需要をなんとか建て直すということでした。そのため、多少リスクを取っても、大幅な金融緩和を行ったり、あるいは財政についても拡大路線を基調にして進めてきたわけです。この需要を修復するというか、需要を少し刺激してあげるというのは、そこそこ成功してきただろうと思います。
それが、今申し上げたような成果になるわけですけれども、ところがある程度需要が伸びてきたときに、今度はそれに応じて供給も伸びていかないと、経済は安定していかないのですが、ここのところは生産性の伸びが非常に低くなってきているということから、供給は伸びていかないわけです。ですから、この先、本当に経済は順調に伸びていくのかどうかということを、皆が心配しているのです。
これは、実は今後の景気の見通しの上でも非常に重要な意味を持っています。供給がなかなか伸びていかないという大問題を抱えながら、なんとか日本の経済を支えているのは需要サイドです。金融をここまで緩和し、財政についてもどちらかというと拡張気味でやってきた結果として需要が出てきているわけです。しかし、もし、この需要がはがれるようなことがあると、虎の子を失うわけですから、日本経済にとって非常に厳しい状況になるのではないだろうか、と考えられるのです。
●注目される2つの問題-米中貿易摩擦とオリンピック後の経済
最近、より多くの人が意識し始めた問題が2つあります。1つは米中貿易摩擦です。その結果として中国経済が非常に落ち込んできていて、日本から見ると輸出の環境が非常に悪くなりました。別に中国だけでなくて、中国経済の縮小の結果として、例えば東南アジアだとか韓国だとか、いわゆる日本の周辺国にも非常に大きく影響が及んでおり、これが今後の日本経済に影響を及ぼす可能性があります。先ほどの需要ということでいえば、外需の部分がどうなるだろうということが懸念されます。
もう1つ、最近になって多くの人が心配し始めたのは、2020年に予定されているオリンピック・パラリンピック後の需要の大きな落ち込みです。オリンピック・パラリンピックという大変大きなイベントであるわけですから、少なくともそれが開催されている最中までは、いろいろな意味で需要は活性化しているだろうと思われます。
ところが、オリンピック・パラリンピックが終わったとき、その需要がそういう状態からそのまま維持できるかというと、お祭りが終わるわけですから先細りになるだろうということを気にしているの...