●疫学的データと経済的データのバランス
――そうした意味では、非常に複合的な視点が必要だということですね。病気のことばかりを考えてもいけないし、経済のことばかり心配していてもいけない。先生がおっしゃったように、データに基づいたバランスのある見方をして、対処していかなければならないということですね。
柳川 そうです。ですから第1に、できるだけ科学的なデータに基づいて、判断をする必要があるでしょう。当然、感染がどう広がるのか、どこまで人の移動や行動を制限すれば、どこまで感染を防げるのかということについても、専門家の方々がご苦労されて、データを集めています。それは100パーセント分かるわけではありませんが、できるだけ把握することが試みられています。経済的なインパクトのほうも、どのような経済的な制限をした際に、どのような経済全体への影響がもたらされるのかを、科学的にデータを使いながら考えていかなければなりません。
そこで、経済学者として貢献していかなければいけないと思っているのですが、第2として、同じように経済活動を制限したときにも、そこから負の連鎖が起きてしまい、供給側や需要側に悪い影響を及ぼしてしまう場合と、多少はそうしたインパクトがあるにせよ、できるだけ負の連鎖が起きずに済む場合とがあるということです。これは、新型コロナウイルス問題の対策とは別に、経済対策・経済政策としてできることがあるはずです。そこをできるだけ、うまくやっていくことが求められます。
もちろん、対策といっても万能薬ではないので、副作用もあり得ます。例えば緊急融資自体は、本当に困っている人に必要な金額を配れれば良いのですが、そうならず、だれにでも配るということになってしまうと財政的に苦しい状態を導きかねません。場合によっては、そのためのお金が余りすぎてしまい、無駄に使われてしまうこともあるでしょう。本当に必要でない人にお金が配られてしまうという状況もあり得ます。この点は工夫をして、起きてくる経済的な副作用をできるだけ防ぎながらうまく負の連鎖を防ぐことが、これからの課題です。
●負の連鎖をどうやって止めるかが重要となる
―― 今おっしゃった経済的な課題としては、負の部分をどのように止めるかという部分の他に、うまい形で今回のウイルスの危機がある程度終息した際に、そこからどうやって経済を上向きにしていくかということも、大きな問題になるかと思います。危機からどのように、経済的に脱出することができるのかという点です。リーマンショックの後ですが、国によってそれがうまくいったところとそうではなかったところが明確に分かれたという話もあります。過去の教訓から学ぶとすると、日本はどのように危機を突破するための経済運営ができるのでしょうか。
柳川 今の状況からすると何を持って終息とみなすかは難しいのですが、その話はさておいて、新型コロナウイルス問題が終息して、経済外のショック要因がなくなったときに、一挙にそこからV字回復できるようにすることが理想的です。
そのためには、先ほどのように、負の連鎖がなるべく起きないようにすることが必要です。負の連鎖が起きていなければ、問題がなくなったときに原状回復ができて、今までたまっていた力を一挙に引き出すことができます。悪循環となって負の連鎖が起きていると、そこがズルズルと行ってしまいます。
リーマンショックは金融的な話だったので、飛行機を飛ばせない、人が動いてはいけない、イベントをしてはいけないというような供給の制約は一切ありませんでした。最初に不動産の暴落のようなショックがあり、その後、負の連鎖だけであれほどの大きな不況を招きました。日本のバブル崩壊も、バブルが崩壊したというイベントの後、大きな経済不況が続いたのは、やはり負の連鎖が続いたからです。そのため、やはりこの部分をどう止めるかが重要になってくるのです。
●借り入れは負のスパイラルの一因になる
柳川 負の連鎖が大きくなる原因は、会社の負債です。そこから倒産の連鎖が起き、それによって今後も倒産が起きるのではないかという懸念が生まれます。そうするとなかなか投資ができず、そのせいで経済活動が十分に行えなくなり、成長していかなくなります。そこは、借り入れが大きいことに要因としてあり、その額が大きなおもしになってしまうということです。
日本の話でいえば、いわゆる不良債権処理に関することです。これをずっと抱えていると、大きなおもしとなり、好循環になかなか進んで行きません。早めに損切りをしていく必要があります。この教訓は重要です。借り入れからくる手枷・足枷、あるいはそれが長引くことをどうやってできるだけ小さくするのか、そしてアクティブな活動ができるようにするのかを考えて...