●需要サイドも不況の要因となる
柳川 ここまでは連鎖倒産という企業と金融機関の話でしたが、もう少しショックが大きくなるのは、これが需要サイドに跳ね返っていくケースです。働いている人たちがいるので、一時的なレイオフなどでこの人たちの所得が大きく減ってしまうと、生活が苦しくなり、物が買えなくなってしまいます。
みんなが物を買うことで、経済全体の総需要が増えます。供給サイドで生産できるようになり、物を動かせるようになったとしても、お金に困ってしまい物が買えなくなってしまう人が増えると、物が売れずに結局、不況になってしまいます。これも問題です。そのため、働いている人たちの賃金をどれだけ大きく減らさないかという課題があります。
●厄介な課題は、将来の予測によって負のスパイラルが起きてしまうこと
柳川 それからもう一つ、やや厄介な課題としては、将来の予測によるものがあります。現在の所得が減らなかったとしても、消費や投資は将来の予測に依存するので、将来もっと大変なことが起きるのではないかという予測、例えば今の賃金が得られなくなってしまうのではないかという予想がなされると、消費は一気に減ります。このような不安感が増大すると、需要が大きく減ってしまいます。
これにより、物がますます売れなくなり、そうなると従業員にお金が払えなくなる。それによって、従業員は消費をますます減らすことになる。こうした需要と供給の悪循環が広がってしまうと、更に問題が悪化します。負のスパイラルが起きてしまうと、手がつけられなくなってしまうのです。
そうならないためには、大きく需要が落ち込まないように、所得が減りそうなところに一時的なサポートを行うことが求められます。今のところ、短期的に大きなダメージを受けているのは、どちらかといえば非正規の人やフリーランスの人です。特に観光業やイベント業界ではこうした勤務形態の人が多いので、この人たちが所得を減らさないように、あるいは経済的に困窮しないようにすることが大事です。もちろんそれは大きく需要を落ち込ませないためにも重要ですが、こうした人たちが大きな貧困に陥らないようにして、社会的な問題にならないように対処していく必要があります。
―― 2020年3月上旬の時点で、日本でも無利子での緊急融資が始まっています。あるいはアジアの国々でも、実際に所得補償によって現金を配るという動きもあります。これらはまさに先生がおっしゃる、経済的な悪循環を食い止めるための方策ということなのでしょうか。
柳川 そうですね。短期的な緊急融資で資金繰りの問題を抑え、大きく所得が落ち込んだり職を失ったりして困窮する人が出ないように、所得補償や所得援助がなされているのです。この2つは短期的な対応としては必要なことだと思います。
ただ、もしかすると問題が大きくなるかもしれません。今、話したように短期的に問題が済めば良いのですが、問題が中長期化し、3カ月から半年ほど支払いが滞ってしまうということになると、短期的な資金繰り対策では解決できません。こうした場合にどのように対処していくかを考えなければなりません。
●感染者が爆発的に増えてしまうと経済活動を止めざるを得ない
―― これは難しいですよね。今回の新型コロナウイルスの難しさは、症状が出ていなくても感染するかもしれないということだと思います。隔離が本当にできているかが分からないので、隔離政策をどこまで続ければ良いのかに関する出口がつかみづらい部分もあります。各国の政府がこれをどう考えるかということが、重要になってくると思います。
現時点では、日本は検査をやや緩めに行っており、重傷者が出たときに亡くならないように全力を挙げ、医療崩壊を招かないようにするという方針を取っているように見受けられます。逆に中国では、かなり強硬な封じ込め策を行い、現段階では封じ込めに成功しつつあると発信しています。
ただ、強硬策を取ると、先生がおっしゃったような経済が止まってしまうリスクが出てきます。日本の策の場合、現在皆さんが普通に出勤しているところからも分かる通り、経済自体はある程度動いていきますが、これをどこまで続けられるかは分かりません。こうした対応策の違いをどのように考えれば良いのでしょうか。
柳川 疫学的な話は専門ではないのですが、通常のインフルエンザの場合、症状が出た人を隔離すれば、伝染や感染を防ぐことができます。それに対して新型コロナウイルスの場合、おっしゃるように症状が出ていない人から感染してしまうという点に怖さがあります。これに対処するには、経済活動を相当圧縮する形で人の移動や活動を制限しないと、感染の拡大を防げません。
感染者が爆発的に増えてしまうと、今ニュースで報道している...