●この30年で、人口は減っているのに大学は増えている
続いて、大学教育の改革です。大学教育の改革は一言でいうと、入口・中身・出口の一貫した教育を目指すというものです。
これは、社会から見た大学の状況を整理したものです。左側が1990年で、右側が2019年です。1990年は今の高校生や大学生の保護者が大学に通っていた時代です。あるいは大手企業の人事部長や人事課長が大学に行っていた時代だと考えてください。
その当時は、大学に進学する18歳の人口が200万人を超えていました。そして今は、なんと4割減って120万人を切っている状況です。その一方、大学の数は507校から786校と、1.5倍に増えています。これは不思議ですよね。おそらく、企業はこのマーケットになかなか参入できません。いわゆるレッドオーシャン(血の海)であり、競争が激しいシュリンクマーケットです。
●大学進学率の上昇が大学増加を引き起こした
なぜ大学はこれだけ増えることができたのでしょうか。実は、この図の下にある進学率が大きく高まったということが原因です。1990年の大学進学率はなんと24.6パーセントでした。小学校でいうとクラスの4人に1人しか大学に行かなかったということです。この割合についてクイズを出すと、ほとんどの人が間違えます。当時かなりのボリュームを占めていたのが、高卒就職、短大進学です。
2019年の大学進学率は、53.7パーセントでした。これは大学だけの数字です。そうなると、以前の約2倍以上、小学校でいうとクラスの半数以上の人が大学に進学するという時代になってきたのです。これで大学は、ある意味で救われたといえるかもしれません。
●新しい学部名称が増加した
一方、図の中に「学士の学位に付記する専攻分野の名称」という分かりづらい表現がありますが、これは何かというとは、学部の名称だと思ってください。1991年までは、大学の学部名称は、29種類にとどまっていました。法学部・商学部・教育学部・理学部・農学部・獣医学部・理工学部といった簡素な名称で、29の領域が定められていました。
しかし、時代が変わり、規制緩和と複合的な分野の必要性から、学部名称の見直しが行われました。その結果、なんと現在では700以上の学部の名称があります。そして、その6割が、一大学のみが使っている唯一名称です。つまり、学部の名称も24倍になっているということです。私立大学の定員割れは現代33パーセントほどで、約3分の1が定員割れになっています。全入時代が間近に控えており、大学の経営基盤が重要になってきています。
●大学教育に対する質の問題が提起され始めた
こうした中で、社会から見たときに何が起こっているかというと、まず700以上の学部名称があるため、名称から学ぶ中身が分からないという状況です。あるいは、特に文系が言われていますが、学習成果として何を身につけたのかが見えづらくなっているということです。そして、偏差値が信頼できないということも言われています。
少し前であれば、偏差値が絶対的な価値を持っていました。しかし現在では、私立大学に進学する学生の半数以上がAO・推薦型といった非学力型の入試になっています。さらには、情報公開が進まないという問題もあります。大学教育の成果を定量的に表すことがなかなかできないというなかで、大学の情報公開が進んでいないという側面も指摘されているのです。
こうして、大学教育に対して社会からさまざまな疑問が呈されています。いったいどの学部で何を学んでいるのだろうか。あるいは大学卒業時に何が身についているのだろうか。また、自ら考え、主体的に行動できる人材というものへの枯渇感もあります。よくいわれているのは指示待ち社員の増加です。「これをやってくれ」と言われたらきちんとやってくるのですが、「じゃあ君はどうしたいんだ」と言われると固まってしまう。そうした状況に対する危機感が表明されているのです。
そして、グローバル化が進む中で、日本の大学は対応できているのだろうかという疑問もあります。人材が国境を越えて流動化していく状況に日本の大学は対応できるのだろうかというものです。高等教育が量的に拡大していく中で、大学教育の質は保証されているのか、担保されているのかということが、大きなテーマとなってきています。
●大学に3つの方針の策定を義務付けた
こうしたことから、大学教育のポイントとして、大きく次の2つが掲げられました。1つは、3つの方針(3つのポリシー)の策定を大学に義務づけるというものです。大学には高校までのような共通した学習指導要領が存在していません。そのため、大学が自ら人材育成の方針と学修成果を...