●フリードマンを目の敵にするクラインの『ショック・ドクトリン』
―― 皆様、こんにちは。本日は柿埜真吾先生をお招きし、「ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』の真実」ということで、お話をいただきたいと思っております。柿埜先生、どうぞよろしくお願いいたします。
柿埜 よろしくお願いいたします。
―― 『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(以下、『ショック・ドクトリン』)は、岩波書店から出た本です。原著が出たのが2007年で、日本で訳されたのが2011年ということで、少し前の本ということですね。
柿埜 そうですね。
―― これを今、見てみましたら、2023年の段階で日本版は20刷になっているということなので、だいぶ好調に売れた本なのだろうということはいえるのかなと思います。
さらに、NHKが世界の名著を次々と紹介していく「100分de名著」という非常に素晴らしい番組がございますが、こちらでも、2023年の6月に、なんとこのナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』が堤未果さんのご解説で取り上げられているということで、果たしてこの本がどういう本なのかということをお聞きしたいのです。
先ほど、先生にお話を伺っていましたら、この本は2007年に出た段階で、アメリカの非常に権威がある新聞ですとか雑誌などでは「陰謀論」の本であるということで、ほぼ断定的に否定されてしまったというような記事が多く出たということですが、やはりそのような本になるわけですか。
柿埜 そうなのです。『ワシントンポスト』は「陰謀理論の本である」ということで、「世の中そんなに単純だったらいいけどね」と言って皮肉を書いています。
―― はい。
柿埜 『ニューヨークタイムズ』でも、「アカデミックな本ではない」と書いています。わりと好意的な書評でも、「ちょっとこれは…」という書き方です。『ニュー・リーパブリック』の書評やケイトー研究所の書評などは、もうメチャクチャです。
―― はい。
柿埜 全部、まさにその通りという書評が出ています。
―― そのあたりを今日は詳しく聞いていければと思います。そもそも柿埜先生に、このご解説をお願いしましたのが、この本が、いってみればミルトン・フリードマン(以下、フリードマン)を目の敵にしているというところで、世界の悪いことは全てフリードマン一派が仕組んだのだ、というようなことを書いているというところですね。
『ショック・ドクトリン』は、そもそもどういうことをいっているのでしょう。
柿埜 ナオミ・クラインがこの本の中で言っていることですが、市場経済というのは普通の人に不人気なものなのだと。
不人気なものを普通の人に押し付けるためには、なにか信じられないようなショックを与えて、人をびっくりさせるようなことを起こさなければいけない。戦争やクーデター、拷問、そういうことをやって、みんなが「えー」と言って茫然自失しているときに、自由市場経済を導入するというやり方をしないと、自由市場経済は導入できない。それでフリードマンは、「危機のみが真の変革をもたらすのだ」というように言っていると。
それで彼は、そのように意図的に危機を起こして、クーデターや戦争など、すごく恐ろしいことをやって、人々を苦しめて、経済危機を起こしたりして、それで自分のやりたい自由市場経済を無理やり押し付けるということを唱えたやつなのだと。
世界で起こった悪いこと、(例えば)パレスチナ紛争やアジア通貨危機、さらにイラク戦争まで、その背後にいるのは全てフリードマンなのだ、フリードマン一派の仕組んだことなのだというのが彼女(ナオミ・クライン)の主張です。
―― なるほど。それで、一つ象徴的な例として挙げているのが、チリの例ということですね。
柿埜 そうです。
―― チリについては、フリードマンが何を仕組んだといっているのですか。
柿埜 (当時)チリのアジェンデという社会主義者の政治家が大統領をやっていたのですが、この政治家が軍のクーデターで、1973年に失脚するのです。軍部のクーデターを、ナオミ・クラインは「CIAが仕組んだのだ」と言うわけです。CIAがクーデターを起こして、それでアジェンデを倒して、ピノチェトという独裁者が出てきた。このピノチェトというのが、シカゴ学派の操り人形みたいなやつだったのだと。
このピノチェトがフリードマンの手先で、フリードマンはピノチェトの経済顧問だった。それで、このピノチェトがすごく恐ろしい拷問をした。それが経済改革を進めるために欠かせないショックだったのだというのです。
そしてフリードマンが、急進的な経済改革をやれ、経済ショックをとにかく国民に与えるのだ、ということをピノチェトに言...