カナダのジャーナリスト、ナオミ・クラインが2007年に著した『ショック・ドクトリン』は、その邦訳書も増刷を重ねるなど、世界で多くの読者を獲得している。本書の論旨は、経済学の権威であるミルトン・フリードマンを痛烈に批判するものだが、その妥当性には各所から疑義が呈されている。いったいどういうことなのか。今回はまず、クラインが考える“ショック・ドクトリン”について解説し、それがいかに本来のフリードマンの議論から「かけ離れた」ものかを明らかにする。(全4話中第1話)
※インタビュアー:川上達史(テンミニッツTV編集長)
クライン『ショック・ドクトリン』の真実
100分de名著!?『ショック・ドクトリン』驚愕の印象操作
クライン『ショック・ドクトリン』の真実(1)ショック・ドクトリンとは何か
政治と経済
柿埜真吾(経済学者/思想史家)
時間:15分16秒
収録日:2023年7月20日
追加日:2023年9月1日
収録日:2023年7月20日
追加日:2023年9月1日
≪全文≫
●フリードマンを目の敵にするクラインの『ショック・ドクトリン』
―― 皆様、こんにちは。本日は柿埜真吾先生をお招きし、「ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』の真実」ということで、お話をいただきたいと思っております。柿埜先生、どうぞよろしくお願いいたします。
柿埜 よろしくお願いいたします。
―― 『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(以下、『ショック・ドクトリン』)は、岩波書店から出た本です。原著が出たのが2007年で、日本で訳されたのが2011年ということで、少し前の本ということですね。
柿埜 そうですね。
―― これを今、見てみましたら、2023年の段階で日本版は20刷になっているということなので、だいぶ好調に売れた本なのだろうということはいえるのかなと思います。
さらに、NHKが世界の名著を次々と紹介していく「100分de名著」という非常に素晴らしい番組がございますが、こちらでも、2023年の6月に、なんとこのナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』が堤未果さんのご解説で取り上げられているということで、果たしてこの本がどういう本なのかということをお聞きしたいのです。
先ほど、先生にお話を伺っていましたら、この本は2007年に出た段階で、アメリカの非常に権威がある新聞ですとか雑誌などでは「陰謀論」の本であるということで、ほぼ断定的に否定されてしまったというような記事が多く出たということですが、やはりそのような本になるわけですか。
柿埜 そうなのです。『ワシントンポスト』は「陰謀理論の本である」ということで、「世の中そんなに単純だったらいいけどね」と言って皮肉を書いています。
―― はい。
柿埜 『ニューヨークタイムズ』でも、「アカデミックな本ではない」と書いています。わりと好意的な書評でも、「ちょっとこれは…」という書き方です。『ニュー・リーパブリック』の書評やケイトー研究所の書評などは、もうメチャクチャです。
―― はい。
柿埜 全部、まさにその通りという書評が出ています。
―― そのあたりを今日は詳しく聞いていければと思います。そもそも柿埜先生に、このご解説をお願いしましたのが、この本が、いってみればミルトン・フリードマン(以下、フリードマン)を目の敵にしているというところで、世界の悪いことは全てフリードマン一派が仕組んだのだ、という...
●フリードマンを目の敵にするクラインの『ショック・ドクトリン』
―― 皆様、こんにちは。本日は柿埜真吾先生をお招きし、「ナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』の真実」ということで、お話をいただきたいと思っております。柿埜先生、どうぞよろしくお願いいたします。
柿埜 よろしくお願いいたします。
―― 『ショック・ドクトリン――惨事便乗型資本主義の正体を暴く』(以下、『ショック・ドクトリン』)は、岩波書店から出た本です。原著が出たのが2007年で、日本で訳されたのが2011年ということで、少し前の本ということですね。
柿埜 そうですね。
―― これを今、見てみましたら、2023年の段階で日本版は20刷になっているということなので、だいぶ好調に売れた本なのだろうということはいえるのかなと思います。
さらに、NHKが世界の名著を次々と紹介していく「100分de名著」という非常に素晴らしい番組がございますが、こちらでも、2023年の6月に、なんとこのナオミ・クラインの『ショック・ドクトリン』が堤未果さんのご解説で取り上げられているということで、果たしてこの本がどういう本なのかということをお聞きしたいのです。
先ほど、先生にお話を伺っていましたら、この本は2007年に出た段階で、アメリカの非常に権威がある新聞ですとか雑誌などでは「陰謀論」の本であるということで、ほぼ断定的に否定されてしまったというような記事が多く出たということですが、やはりそのような本になるわけですか。
柿埜 そうなのです。『ワシントンポスト』は「陰謀理論の本である」ということで、「世の中そんなに単純だったらいいけどね」と言って皮肉を書いています。
―― はい。
柿埜 『ニューヨークタイムズ』でも、「アカデミックな本ではない」と書いています。わりと好意的な書評でも、「ちょっとこれは…」という書き方です。『ニュー・リーパブリック』の書評やケイトー研究所の書評などは、もうメチャクチャです。
―― はい。
柿埜 全部、まさにその通りという書評が出ています。
―― そのあたりを今日は詳しく聞いていければと思います。そもそも柿埜先生に、このご解説をお願いしましたのが、この本が、いってみればミルトン・フリードマン(以下、フリードマン)を目の敵にしているというところで、世界の悪いことは全てフリードマン一派が仕組んだのだ、という...
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