●民主化と経済自由化は矛盾するというクラインの矛盾
―― クラインが、結局は新自由主義が世界をどんどんダメにしたのだという議論を展開しているということですが、柿埜先生がデータをまとめてくださっています。
柿埜 はい。
―― どういうデータになりますでしょうか。
柿埜 まず、全ての間違いをいちいち指摘するということはちょっとできないので、本当にごく一部だけを指摘することにします。
まずそもそも、クラインは民主化と経済自由化は矛盾するかのように書いています。だから、経済自由化を進めた独裁者や非民主的な指導者ばかり挙げるのです。ところが、実際はまったく違うのです。
これは、民主主義指数と経済的な自由の指数を比較したものです。『エコノミスト誌』による民主主義指数に基づいて国を分類したものなのですが、これを見ていただくと、現実には、民主主義の度合いが高い国の方が経済的な自由が大きいということが分かると思います。
実際、完全な民主主義に分類される国で、経済的な自由がない国に分類される国はありません。権威主義体制に分類される国は、ほとんどが経済的な自由がない国です。ですから、それが矛盾するとか、不人気な考え方だから市場経済をやるには非民主的な方法を使わなければいけないのだというのは、はっきりいって全然根拠がないのです。
実はクラインがいった、1970年代の後半から1980年代にかけては、世界中のどこの国でも自由化が進んだ時代です。だから、どんな国を取り上げても、経済的自由化が進められたということができるわけです。なのにわざわざ、クラインは民主的でない国だけ取り上げているわけです。
フリードマンが一番絶賛していた国の一つはニュージーランドですが、ニュージーランドは徹底的な民営化をやった国です。それを進めたのは、左派政権だったニュージーランド労働党のロンギ首相です。(ですから)右派とか左派とか、そういうことは関係ないのです。
それから、アメリカの経済の自由化、規制緩和を最初に始めたのは、どちらかといえばカーターです。レーガンの前にカーターが、すでに航空産業の規制緩和を始めましたし、運輸産業の規制緩和も始めました。インフレ率が高すぎるから、急激な引き締めをしなければいけないということを認識したのも、カーターが最初...