●アメリカ国民の政治的・社会的関心の分断
―― 今、台湾はそのような危機にあるということなのですけれども、片やアメリカは、軍の方はそのような形でプレッシャーを強める可能性もあるということでしたが、アメリカ国民の関心について、このスライドにあるのはどういうデータになるのでしょうか。
小原 いろいろな調査が出ていますが、これは最新の調査の1つです。これは今、アメリカ人が直面している問題として最も重大な問題は何だ、という問いかけに答えたものです。これが、「経済」という回答の割合が圧倒的に高く、32パーセントです。3人に1人ほどが「経済」だと答えています。それからずっと見ていきますと、もちろん「医療」や内政的な問題が並んでいます。9番目に初めて「National security(国家安全保障)」という回答が出てきます。
―― 「Gun control(銃規制)」よりも下ということですね。
小原 そうですね。つまり、国内の治安よりも対外的な脅威のほうが下にあるのです。これを見ても分かるように、やはりアメリカ人の一般市民の関心事として、経済をはじめとして社会問題が圧倒的に高いということです。
これは次のスライドを見ていただいたら分かりますが、こうした問題をめぐって実は非常に大きな対立があるのです。例えば、先ほどの関心の中で5位に「Abortion(中絶)」があります。中絶の問題は、最高裁の判決もあって大きなイシューになっており、特に女性にとっては大きな問題です。
スライドに挙げましたが、「中絶、トランスジェンダー、銃規制、排ガス基準、再生可能エネルギー」といった問題をめぐる対立が今、非常に深刻になっています。
(また、スライド内の図に)赤と青で示しましたが、選挙をやるたびに、レッドステートとブルーステートがはっきり分かれてきています。もちろんその間にスイングステートという層があって、選挙のたびにコロコロ変わっている州もあるのですが、この赤と青の分断が、アメリカの直面している非常に難しい政治問題、すなわち政治、社会の分断を象徴しているのではないかと思います。
スライド(資料)の右の折れ線グラフは、左右のバランスを取って政治をやるバイデン氏のような中間派の人たちが段々と少なくなってきたことを示しています。二極化して、激しく対立するようになってきたということです。
―― 口が開いているのはそういうことなのですね。
小原 そうです。このグラフがそれを知らせているのです。
●「民主主義の後退」と「権威主義の世界的広がり」
小原 次のページ(次のスライド)にいきます。世界的に見ると、民主主義の本山であるアメリカでそういった二極化の状況が起きてきています。それが世界的にも広がってきています。これは国際民主選挙協会というところが出している報告書なのですが、この表は民主主義が後退しているということを記しているわけです。これに関しては、次にもう1つ(スライドが)あります。
(スライド内の表は)上と下で分かれています。フリーダムハウス「(2022年)権威主義の世界的広がり」ということで、要するに権威主義の広がりが下のほうに出てきているわけです。「Number OF COUNTRIES THAT DECLINED」と書いてある箇所で、民主主義の後退が下に表れてきており、それが国の数で示されています。民主主義が後退した国がこれだけあるということで、こちらの表のほうが分かりやすいと思います。
まさにこれも先ほどの表でいうと、下のほうが「権威主義が増えた」ということです。例えば「Global financial crisis(世界金融危機)」や「COVID-19 pandemic(コロナ・パンデミック)」の時に権威主義が広がって、民主主義が後退したということです。
次のページ(次のスライド)を見ていただくと、「民主主義の防衛と刷新」と書いてあります。では、その背景は何かということをここに書きました。先ほど、民主主義の総本山である「アメリカのパワーの相対的低下」というような話をしましたが、これが1つの大きな要素としてあるのです。
同時に、世界的にこれまでの民主主義の強さであった、自由民主主義と資本主義のパッケージでもって高い経済成長も維持をし、そのパイが中間層を中心に社会を潤してきたという成功体験が続かなくなってきたということが実はあると思うのです。つまり、政治と経済のパッケージがうまくいかなくなったのです。その結果、先ほどのラストベルトの話もそうなのですが、要するにそれが選挙にも表れるようになって、選挙を通じ...