2019年頭所感
米中の緊張関係の裏に見る「飽和」と自国主義の蔓延
2019年頭所感(1)米中の飽和とESG投資
科学と技術
小宮山宏(東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツ・アカデミー座長)
2018年の年末は、トランプ米大統領と習近平中国国家主席による米中首脳会談で幕を閉じた。高い関税を掛け合う貿易紛争は「貿易戦争」とまで呼ばれ、安全保障の面でも対立が目立つ両国。「新冷戦」ともいわれる両国関係が、2019年を占う背景となることは間違いない。(全2話中第1話)
時間:14分50秒
収録日:2018年11月21日
追加日:2019年1月1日
収録日:2018年11月21日
追加日:2019年1月1日
≪全文≫
●米中の緊張関係の裏には両国の「飽和」がある
あけましておめでとうございます。2019年も、テンミニッツTVをよろしくお願いいたします。
今年の予測ということはもちろんできませんが、米中の緊張関係が非常に重要な背景になることは間違いないでしょう。どうしてこういう状況になっているかというと、一つはアメリカが「普通の国」になってきたということだと思います。
アメリカは、イギリスの人たちが入植して以来、原住民の方の問題を別にすると、「ニューワールド」であり続けました。そこは、資源にも気候にも恵まれた素晴らしい肥沃な土地です。開発がどんどん進む中で「ゴールドラッシュ」のような、「西へ西へ」と皆が目指す動きが起き、カリフォルニアに到達したことで「未開の地」はなくなりました。その後、エジソンに代表されるような産業が起きて、発展が続きます。
もともと人口が少ないところでしたから、移民をどんどん受け入れてきました。それらが飽和したということです。飽和したために、「壁」をつくるというのです。2018年、ホンジュラスから1万人近くが押し寄せましたが、200年前なら、それもどうということはない時代でしたし、そもそもホンジュラスからアメリカに行く理由すらなかったかもしれません。アメリカが「普通の国」として飽和したために余力がなくなってきた。これが基本的背景としていえることだと思います。
一方、中国は非常に貧しい国であったのが、鄧小平の登場以来、大きな人口に支えられて急速に発展してきました。おそらく今まで世界で最もスピードのある発展をした国は日本だったと思いますが、その後(大きさは別として)韓国が続いて、次が中国です。中国の発展スピードは、日本や韓国をも上回る速さです。
ある意味では「何をやるべきか」が分かっており、工業を行い、そこに情報技術をプラスするということで、これらは、前を走った人たちを見てやっているわけですから、速いのも当然です。しかし、もちろん10数億人の国を破綻させずにそれを成し遂げたのは大したことです。その中国にも遠からず、経済成長の飽和が見えてきました。
●自動車の販売台数が物語る発展と飽和
日本がたどった道を考えてもよく分かります。戦後、復興する時には衣食住が足りないので、はじめに作るのは農業のための肥料、着るための繊維などで、そうした基礎産業が...
●米中の緊張関係の裏には両国の「飽和」がある
あけましておめでとうございます。2019年も、テンミニッツTVをよろしくお願いいたします。
今年の予測ということはもちろんできませんが、米中の緊張関係が非常に重要な背景になることは間違いないでしょう。どうしてこういう状況になっているかというと、一つはアメリカが「普通の国」になってきたということだと思います。
アメリカは、イギリスの人たちが入植して以来、原住民の方の問題を別にすると、「ニューワールド」であり続けました。そこは、資源にも気候にも恵まれた素晴らしい肥沃な土地です。開発がどんどん進む中で「ゴールドラッシュ」のような、「西へ西へ」と皆が目指す動きが起き、カリフォルニアに到達したことで「未開の地」はなくなりました。その後、エジソンに代表されるような産業が起きて、発展が続きます。
もともと人口が少ないところでしたから、移民をどんどん受け入れてきました。それらが飽和したということです。飽和したために、「壁」をつくるというのです。2018年、ホンジュラスから1万人近くが押し寄せましたが、200年前なら、それもどうということはない時代でしたし、そもそもホンジュラスからアメリカに行く理由すらなかったかもしれません。アメリカが「普通の国」として飽和したために余力がなくなってきた。これが基本的背景としていえることだと思います。
一方、中国は非常に貧しい国であったのが、鄧小平の登場以来、大きな人口に支えられて急速に発展してきました。おそらく今まで世界で最もスピードのある発展をした国は日本だったと思いますが、その後(大きさは別として)韓国が続いて、次が中国です。中国の発展スピードは、日本や韓国をも上回る速さです。
ある意味では「何をやるべきか」が分かっており、工業を行い、そこに情報技術をプラスするということで、これらは、前を走った人たちを見てやっているわけですから、速いのも当然です。しかし、もちろん10数億人の国を破綻させずにそれを成し遂げたのは大したことです。その中国にも遠からず、経済成長の飽和が見えてきました。
●自動車の販売台数が物語る発展と飽和
日本がたどった道を考えてもよく分かります。戦後、復興する時には衣食住が足りないので、はじめに作るのは農業のための肥料、着るための繊維などで、そうした基礎産業が...
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