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日本の課題は「少子高齢化」ではなく「少子化」

2019年頭所感(2)日本の少子化対策と地方活性化のために

小宮山宏
東京大学第28代総長/株式会社三菱総合研究所 理事長/テンミニッツTV座長
情報・テキスト
2019年の日本はどのような方針で臨むべきか。課題先進国から課題解決先進国としての姿を見せるには、国内の課題を解決する必要がある。中でも最重要の課題は急激に進む「少子化」への具体的な対策であろう。(全2話中第2話)
時間:14:34
収録日:2018/11/21
追加日:2019/01/01
≪全文≫

●日本の課題は「少子高齢化」ではなく「少子化」


 さて、米中の緊張関係という非常に大きなリスクを背景に、世界の資本はESG投資の方向へ向かっています。そのような中、日本はどうしていこうかということについてお話しします。

 もちろん、国際的にはTPPやAPECなどの問題があり、日本の利益を損なわない対外関係とすることが極めて重要です。それは言うまでもないこととして、私は、国内の本質的な問題を解決すべきだと思います。課題解決先進国となることです。その背景としては、日本が課題先進国であることが基本にあり、日本が自分の課題を解決すれば、それは世界のモデルを示すことになっていくからです。

 では、日本の課題とは何なのか。いろいろあるのですが、やはり最大の課題は「少子化」です。「少子高齢化」といわれるけれども、みんなが長く生きたいつまり人類の夢が実現したということであり、長寿化は悪いことではありません。問題は、人口の年齢構成のバランスがくずれることであり、少子化こそが問題なのです。


●少子化の構造的問題と東京の低い出生率


 日本は、少子化に対して構造的な問題を抱えています。今、平均出生率は1.4を少し超えるところ(2017年)です。一人の女性が生涯に産む子どもの数が2.07、つまり二人の赤ちゃんを産む状況でないと、日本の国がなくなってしまうわけですから、少子化は克服しなければなりません。

 ところが、東京は日本国内でも子どもの生まれる数が一番少なく、一人当たり出生率は約1.2(2017年)という状況です。周りを見ていても、東京で二人以上の子どもを育てるのは大変です。家の広さの問題もあれば、子どもが遊ぶ場所が東京では非常に限られているということもあります。そして、教育費が高い。そのように、さまざまな問題があって、東京の出生率はなかなか上がりません。

 ところが、人口が増えているのは横浜なども含めた東京「圏」だけです。どういうメカニズムかというと、子どもの生まれる数の比較的多い地域から、東京へ若い人が来るけれども、来るとなかなか帰らない。そうした非常に単純な理由です。その結果、東京は今のところ経済も非常にうまく回って好況ですが、地域は大変です。大変なだけではなく、このままでは子どもを産める世代の女性が本当にいなくなってしまいます。


●地域に仕事をつくれば、「2カ所居住」も実現できる


 私は「プラチナ構想ネットワーク」に携わっていて、日本中を飛び回っていますが、地域の問題は高齢化だけではありません。若い人たちがいなくなっていることが、最大の問題です。今、子どもが生まれている地域がなくなってしまうわけですから、東京ももたない状況になるわけで、この問題を本質的に解決しなくてはいけません。

 私は「地域に仕事をつくる」ことが一番だと思います。というのは、地域・地方に行きたい・戻りたいと考える人の数は、決して少なくないからです。東京の過密の中で心を病んだり、そうでなくてももっと自然と触れ合いながら生きていきたいと思っている人が非常に多くいます。

 われわれはもっと豊かな人生を歩むことも可能なはずで、例えば「2カ所居住」という方法もあります。東京に拠点を持ちながら、地域で農業をやることも、今の交通事情や情報技術の進展を考えれば実現可能です。だから、なんとか地域に働ける場所をつくっていくことが、何より重要だと思うのです。


●東大に保育所~社会課題を自分の問題として考えると行動も変わる~


 一方で、東京はもっと余裕をもって、子育て環境をつくっていく必要があります。これには、企業もその気にならなければいけないし、行政もそのことを自分たちが本気でやっていかなければいけません。

 私は、大学を辞めて10年になります。自慢話にはなりますが、辞める前の4年間の任期の間に東大に学内保育所を5つつくりました。今の総長はそれを「また増やす」とおっしゃっています。私がなぜそのようなことをしたかというと、大学の教職員の人たちや大学院生たちの希望をいろいろ聞いたところ、圧倒的に多いのが「保育所をつくってほしい」ということだったからです。私が今でも誇りに思えるほどうれしかったのは、安田講堂で職員の人たちと議論をしている時に、一人の女性が手を上げて言ったことです。

「私は今日、学位をもらいました。南米から来たのですが、子どもが生まれたのであきらめようかと思っていました。その時、大学内に保育所があったので、学業を続けて学位を取ることができました。そのお礼を言いたくて、来ました」

 これは、うれしかったです。少子化というと社会の問題と考えがちですが、結局は自分の問題なのです。このことを、みんながよく考えてみるべきだと思います。企業の社長も、社員も、そして首相もみんな、社会課題...
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