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若者の留学やベンチャーを支援する環境づくりに着手すべき

高齢化と財政危機~その解決策とは(23)経済を活性化する人材活用策

島田晴雄
慶應義塾大学名誉教授
情報・テキスト
公立大学法人首都大学東京理事長の島田晴雄氏は、日本経済のパイを増やしていくために、もっと本格的な人材活用を進めるべきだと主張する。外国人や高齢者だけでなく、若者の海外留学やベンチャーの起業を支援しなければ、日本経済は活性化していかないだろう。(全24話中第23話)
時間:08:26
収録日:2017/10/05
追加日:2017/12/19
≪全文≫

●移民法がない国に来たいと思う、高度人材はいない


 日本経済のパイを増やしていくためには、もっと本格的な人材活用が欠かせません。人材活用は依然として、壮年男子中心です。高齢者や子育て期のお母さんたちは、活用されていないのです。アベノミクスの掲げる「一億総活躍」はこの点に着眼しており、大変良い戦略だと思います。

 ただし、まだ見落とされているのは外国人です。ローマ帝国以来、外国人の人材を受け入れずに成熟した国が存続した例はありません。この点で、日本の状態は危ういのです。日本には、入国管理法と難民認定法はあっても、移民法は存在しません。移民法は外国人がこの国に来るには、どのような条件を満たせばいいのか、条件を満たせばどのように扱われるのかを規定した法律です。お相撲さんを見てください。日本人になりたいというお相撲さんがとても苦労した例を、いくつも私は知っています。今は総務省になっていますが、旧自治省民生局の主観的判断一つで、移民が認められるかどうかが決まる時代がありました。

 日本に来てもらいたいのは、やはり最優秀の外国人でしょう。日本人と結婚し、この国の財産と子孫を受け継ぐことになるわけですから。いわゆる高度人材ですが、それは世界中で奪い合いです。高度人材を呼ぼうと思っても、移民法がなく、扱いが全く不透明な国に来る人はいません。こうした点に、日本人が気付いていないのは残念です。


●日本のベンチャーにはホームバイアスがある


 さらに、起業の低迷も、人材活用の不徹底の一つです。日本でもベンチャーがある程度は頑張っていますが、国際的に比較すれば、やはりホームバイアスがあります。日本人はベンチャーを興しても、どうしても国内で考えてしまいがちです。1億人の人口がいるから、仕方がないのですが、フィンランドでもノルウェーでも韓国でもドイツでもイスラエルでも、世界規模で考えています。発想を変えなければなりません。

 また、定年制という強固な雇用制度も悪弊の一つです。つまり、定年後の人材を活用することができないのです。人材はやがて摩滅して、従属人口になり、社会の負担になります。そうなる前に、「80歳まで現役」という社会をつくる必要があるでしょう。


●留学を国家的に支援すべきだ


 最後に、若い力をもっと応援することです。その一環として、留学を国家的に支援すべきでしょう。留学期間中に、異質なものとのぶつかり合いの中で刺激を受けて、人間は成長していきます。科学の発展も、国際交流がなければ不可能です。世界観を養わなければ、高度人材は絶対に育成されません。

 日本人は戦後、基本的にはフルブライト奨学金留学してきました。政府の奨学金ではなく、アメリカの支援で留学してきたのです。私もフルブライト奨学生です。フルブライト奨学金は、何万人という日本の学生に、アメリカの大学で学ぶ機会を与えてくれました。

 反対に、日本政府は中国人学生に同じようなことを行っています。毎年、数万人の中国人留学生が日本に入ってきます。そのうちの2、3割の人たちは、日本政府の資金です。日本政府の支援で日本の大学を卒業した中国人留学生は、今では100万人近いでしょう。彼らは日本で曲がりなりにも大学を出ています。奨学金をもらいながらアルバイトをして、卒業論文を出し、卒業していますから、日本語が得意です。日中の通訳ができるレベルです。私は何度も中国に行ったことがありますが、いまだかつて日本人の通訳に当たったことはありません。中国人留学生の中にはこうした通訳能力が育っている人は100万人ほどいるでしょうが、日本人留学生の中には数千人もいないと思います。

 しかし、日本政府はアメリカのお世話になり、中国のお世話をしているのに、なぜか日本国民のお世話をしません。最近では、日本のスポーツ選手が頑張って、柔道などでは続々と金メダルを取っています。代々木に立派なセンターを造って、国家的に応援しているからでしょう。目に見えた成果が上がってきているのです。これを日本人留学生にも行うべきです。


●ベンチャーを支援する仕組みが、世界の主要都市にはある


 戦後の日本には、確かにベンチャーがありました。代表的なのは、松下幸之助氏やソニーの盛田昭夫氏、ホンダの本田宗一郎氏です。彼らは自助を行い、自ら努力してあの地位に上りつめました。しかし、終戦直後の時代と今は全然違います。日本の若い人は、おいしいものを食べて、親に面倒を見てもらっています。こうした環境で起業家になれと言っても、どうしても難しいでしょう。

 世界はそうした若い人たちを、積極的に助けようとしています。例えばシリコンバレーやニューヨーク、ロンドンをはじめとして、最近ではシンガポールが、国家資金で3,000人の留学生を外国に派遣し、ベン...
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