●保険料率の引き上げは限界に達している
歳出削減の最大の柱は、社会保障をどこまで改革できるかにかかっています。額がものすごく大きいですから。社会保障制度の改革について主な意見を拾いながら、考え方を整理していきたいと思います。ただし、社会保障は額を減らせばいいという問題ではありません。社会保障はやはり、一般国民あるいは勤労者の生活にもろに関わっています。したがって、質的な改革が必要になります。
最大の問題は年金改革です。第1の要点は、保険料の引き上げです。保険料率の引き上げは、財政赤字累積のほとんどが社会保障給付の増大によるようになった1990年代以降、財政赤字増大を抑制する手段として、大変有力な選択肢と見なされてきました。実際、政府は保険料率を引き上げ続けてきました。しかし、政府は国民に対して、2004年の改正で、2017年度までに18.3パーセントへと引き上げれば、それ以上は引き上げないという約束をしました。
18.3パーセント以上に引き上げるなら、2004年の公約を破ることになります。国民は公約のために存在しているわけではないですから、国民のためになることであれば、公約はいくら破ってもいいと私は思います。しかし、実際には、これ以上に引き上げると、現役世代の負担をさらに高めてしまうことになるのです。
つまり、保険料率の引き上げによって勤労意欲が減退すれば、現役世代、将来世代の負担が増えるのです。今給付を受けている受給世代の負担は高まることはないのですから、世代間格差が非常に拡大していくでしょう。したがって、保険料率の引き上げは限界に達していると思います。
●マクロ経済スライドは、一度も適用されていない
年金改革の論点として、第2に給付の削減があります。2004年の大改革で、「マクロ経済スライド」という制度が導入されました。経済が成長しようがしまいが、毎年、年金給付額を0.9パーセントずつ引き下げていくという制度です。これは法律で通っています。その根拠は、公的年金の被保険者の減少です。長期推計によれば、人口が毎年0.6パーセント減っていくのに対して、平均寿命の伸び率は、平均0.3パーセント増えていくということです。これに合わせて0.9パーセントずつ給付を減らしていけば、マクロ経済変動とは別に、構造変化に対する対応ができるというわけです。
この制度を適用していけば、22、3年...