●債務の累積は財政破綻を引き起こしかねない
これまで、日本の深刻な政府債務の累積問題を、その内容や制度、構造、歴史にわたって見てきました。債務の累積は、財政危機だけでなく財政破綻をも引き起こしかねません。こうしたリスクをどのように回避するべきか、そしてこの重大な問題をどう克服すべきか、これから考えていきましょう。
まず金融、財政、そして成長戦略について見た後、社会保障を構成する年金・医療・介護の分野について、何をすべきかということを考えたいと思います。そして最後に、財政危機から財政破綻に陥りかねないというリスクを回避・克服するために、今取り組むべき最も重要な政策について提案します。現在、歴史的に大きく転換しつつあるこの国を、将来に向けて持続可能な社会にするには、何をすべきなのでしょうか。
●日銀は異次元緩和を脱却して、適切な出口戦略を採用すべき
まず金融の問題です。異次元金融緩和という政策が、アベノミクスの一環として提議され、黒田東彦日銀総裁によって推進されてきました。2014年10月以降には、毎年80兆円ペースで国債を購入して、ベースマネーの供給を増やすという方針になっています。ベースマネーを増やすということは、日銀が民間金融機関に国債の代金を支払うということです。しかし、その代金の多くは日銀の当座預金に積み立てられています。その結果、2017年7月時点での日銀の資産は、505兆円という、ほとんどGDPに匹敵する額になってしまいました。そのうち、いわゆるマネタリーベース、ベースマネーの蓄積は470兆円に上っています。
こうしたマネタリーベースの急速な累積が今後も継続された場合、国債の発行残高の全てを日銀が吸収してしまうという、異例の事態になりかねません。そうなれば、国債市場は機能不全に陥る危険があります。そうした事態に陥る前に、日銀は異次元金融緩和を脱却して、膨れ上がったマネタリーベース、すなわち日銀のバランスシートを、正常な姿に戻す出口戦略を採用する必要があるでしょう。
●出口戦略の実行はリスクを伴うが、不可能ではない
ベースマネーの供給拡大の目的は、緩やかなインフレ基調を定着させて、消費や投資活動を活発化させ、経済を適切な成長軌道に乗せることにありました。これが実現すれば、もちろん日銀は異次元緩和の異常な状況を脱却して、適切な出口戦略を採用すべきです。しかし、日本経済の現状はそうなってはいません。2016年後半から成長率が改善し、物価上昇の兆しも見えてきてはいるものの、インフレ基調が定着し、経済が適切な成長軌道に乗ったとまではいえない状況です。
問題は、こうした理想的な経済状況が実現するまで、日銀は異次元緩和を続けるべきなのか、それとも、早い段階で出口戦略に移るべきなのか、ということです。私の考えでは、これ以上異次元緩和を続行すれば、国債市場の機能不全が経済破綻の引き金を引くリスクが極めて高くなるため、できるだけ早く出口戦略に移行すべきです。
出口戦略としては、買い込んだ国債などの過大な資産を市場で販売し、適切な規模に収縮していかなければなりません。さらに、徐々に金利を引き上げて、正常な金利水準の復活を目指すことも求められます。
ただし、どちらの面にも、大変大きなリスクが伏在しています。国債など過大な資産を縮小するには、現在の資産規模があまりにも巨大であるだけに、相当規模の資産を市場で売却する必要があります。しかし、それは国債価格の急落を招くでしょう。また、金利暴騰のリスクを高める恐れも出てきます。
金利を引き上げて正常な水準に戻していく過程にも、リスクはあります。現在ゼロ金利ならびに超低金利を適用しているマネタリーベースについて、金利を引き上げていけば、その利払い費用の額は膨大になります。それが一定の水準を超えると、日銀の経営そのものが悪化しかねません。
確かに、こうしたリスクがあるため、出口戦略の実行は大変難しい問題です。しかし、不可能ではありません。日本銀行信用機構局長を務めた田幡直樹氏によれば、市場の混乱を避けるためには、日銀保有国債の四半期別期日の到来額を平準化し、市場参加者が日銀の行動を予測しやすくすること、そして市場と対話をして情報を共有しつつ、再投資を停止するという対策が必要です。こういう注意深い対応をすれば、着実に出口戦略が実行できると田端氏は述べていますが、これは国際的にも評価されている意見です。
一般的に、撤収は攻撃よりも難しいといわれていますが、ここまで拡大した資産を正常な状態に戻すのは相当困難です。しかし、市場の混乱を最小にしつつ、出口戦略を早期に進めるべきだというのが、私の考えです。ただし、あまりに額が大きいため、これは何十年もかかる可能性があります。