●1丁目1番地でやるべき本格対応は、財政再建だ
前回、安倍晋三政権のアベノミクスの展望を見ましたが、ここではより根本的な問題について、考えてみようと思います。財政危機のリスクが次第に近づいてきていることを考えると、とにかく1丁目1番地でやるべき本格対応は、財政再建です。
財政再建の基本戦略は、増税、歳出削減、経済成長です。歳出削減は、頑張っても数兆円程度にとどまるでしょう。経済成長は時間のかかることですが、意味がないわけではありません。これらを組み合わせても、やはり一番力のあるのは増税です。
安倍政権は増税の機会をどんどんと先送りして、好機を逸しています。社会保障改革にもほとんど踏み込んでいません。財政危機が近づいているのは誰が見ても明らかなのに、それへの正攻法である増税を基本にした財政再建に、なぜ本格的に取り組まないのでしょうか。
●増税を延期して経済が良くなる保証はどこにもない
2011年に、当時の日本政府が増税について国際公約をしました。財政規律を回復して、税の直間比率を是正するという趣旨です。つまり、直接税だと、働いている人が負担をもっぱら背負いますので、間接税にして国民全部が負担するようにするという公約です。これは全く当然のことです。
2012年に民主党、自民党、公明党の間で3党合意がなされ、2014年4月に消費税率を5パーセントから8パーセントへ、そして2015年10月には10パーセントに上げることになりました。
実際、2014年4月、安倍政権の下で消費税は8パーセントに上がりました。消費増税のアナウンスメント効果によって、駆け込み需要が殺到しました。直前3カ月のGDP比は、年率で4.9パーセントも急騰しています。しかし、上げた直後の4-6月期には、反動減でマイナス7.1パーセントに下落し、その後、消費は低迷して、経済は浮揚しませんでした。消費税には、大変大きな負の効果があるということで、おそらく安倍政権にとって、非常に強いトラウマになったのではないかと思います。
ただし、専門家の見解は違います。2015年10月に予定されていた消費税10パーセントの引き上げが延期されたことについて、批判的な見方が多数ありました。国内の有力な経済学者だけでなく、IMF(国際通貨基金)のクリスティーヌ・ラガルド専務理事のコメントが代表的ですが海外からも増税はやるべきだという声が聞かれました。増税を延期して経済が良くなる保証はどこにもないではないか、というのです。そうした保証があれば別だが、何の保証もないのに延期をしても無意味だということです。延期すればするほど、負担は大きくなります。これを分かっていて延期するということは、一体どういうことなのでしょうか。
●バランスが目の前の選挙に傾きすぎてはいないか
これに対して、安倍首相の考えはこうです。「皆さんに約束した、消費税引き上げを延期するということは大きな変化なので、国民の信任を問わなければならない。だから総選挙だ」と。こうして安倍首相は総選挙を打ち、大勝ちしてきました。
実際、税を上げられることが好きな国民は1人もいませんから、増税を延期するといえば選挙には勝てるでしょう。安倍首相にしてみれば、選挙で勝って国民の信任を得たということでしょうが、安倍政権はいつもこの調子です。税に関わることを変えるときには、総選挙なのです。2017年10月の総選挙についても、同じです。増税による財政再建ではなく、税金の使い道を教育など他のところに回すといえば、国民は喜ぶに決まっています。ただし、野党や多くの人たちが「大義なき選挙」だと批判していますし、国民もあまり理解できないと感じています。
安倍総理は政治家として、目の前の選挙と国の将来、これからの世代のどちらを優先的に考えているのでしょうか。バランスが、どうも目の前の選挙に傾きすぎてはいないかと感じます。
●年金制度改革には、少なくとも2つの問題がある
さらに、年金問題についても本格的な対応は図られていません。年金制度改革には、少なくとも2つの問題がありました。
第1に、2004年の大規模年金改革の時に導入された、「マクロ経済スライド」という条項です。日本は急速に高齢化しているため、経済指標の他に、高齢化に見合うような形で、年金給付を少しずつ削減すべきだと、法律で決めたのです。
この法律にはインフレのときだけ給付を削減し、デフレのときには削減しないと書いてあります。インフレのときであれば、名目賃金も手取りも増えていますから、給付額を下げても、実質は増えているのと変わらないだろう、というわけです。目安はインフレ率0.9パーセントの上昇で、それに応じて給付額も0.9パーセント減らされます。反対に、デフレのときに給付を下げれば、賃金は上がっていないか、マイナスにな...