●政治家は高齢者の利益に反する政策を立案することが困難だ
財政破綻のリスクはどんどん高まっているのですが、政治家は国民の意向を忖度(そんたく)して政治をします。国民の支持のないことはできません。ですから、国民にも非常に大きな責任があると思うのです。
そこで国民の理解に関して、2つのポイントを見ておきたいと思います。第1のポイントはシルバー民主主義です。高齢化社会では、高齢者層の比重が高くなります。その上、高齢者の投票率は高く、70パーセント近くもあります。それに対して、若年者は20~30パーセント程度しかありません。高い投票率を持つ高齢者層が、高齢化とともにどんどん比重を増していく、というのがシルバー民主主義です。高齢者層が望むのは、例えば年金の給付を増やすというように、自分たちの利益になることであって、先のことは知らないということになりがちです。
こうしたシルバー民主主義の下では、政治家は高齢者の利益に反する政策を立案したり実施したりすることが、非常に難しくなります。したがって、財政破綻の危機が仮に迫っていても、政治家も政党も、いきおい高齢者の目前の利益を守る政策を取りがちです。これは世界に共通することですが、安倍晋三政権もこの傾向に忠実なのかもしれません。
●政治が財政問題に本気で取り組まないのは、民主主義の帰結か
第2のポイントは、国民の合理的無知です。財政も社会保障も非常に複雑で、壮大な仕組みなので、投票者のほとんどは、その全体像を理解することができません。しかも、投票者はたった1票しか投票権を行使できません。たった1票の行使のために、そうした仕組みの全体像を理解するというのは、割に合わないでしょう。
したがって、投票者は、税金や社会保障給付がどれだけ上がるのかという利害については大変敏感ですが、それがどういう意味を持つか、背景には何があるかといった、全体像を把握しているわけではありません。財政赤字がどんどん増えていくことに、漠たる不安を抱きつつも、それが一体どのようなメカニズムを通じて財政破綻に至るのかということは、全く分かっていないし、分かろうともしません。
こうした、「分かろうとしない。だから分からない」というものを、合理的無知と呼びます。財政破綻と経済破綻は、システム全体の総合的機能不全ですから、投票者が全体像を理解していないし、また理解する気持ちもないとなると、政治は彼らにアピールできません。つまり、得票につながらないとなれば、政治家はアピールしようとは思わないでしょう。したがって、政治も政権も、財政破綻問題に本気で立ち向かおうとしないということは、民主主義の帰結かもしれません。
●日本の国債利回りは低く抑えられている
確かに、財政や社会保障の仕組みは、それ自体で分かりにくいものなのですが、さらにそれを分からなくする意図的なメカニズムが、日本の政治経済機構の中に組み込まれています。一つは国債に関するもの、もう一つは年金など、社会保障に関するものです。これを暫定的に、「国債村」、「年金村」と呼びます。
まず「国債村」から説明します。日本の財政赤字残高は、GDP比で240パーセント以上に達しており、世界でも突出しています。GDPの2倍以上の財政赤字を抱えている国は、世界で日本とギリシャだけです。日本政府は、2020年までに、基礎的財政収支を均衡させる、もしくは黒字にするという財政再建目標を世界に公約していますが、繰り返し見てきたように、その達成はおそらく困難でしょう。言い換えれば、累積した借金の返済が困難になっているということです。だとすると、常識的に考えれば、そうした国債は償還されないリスクがあるので、それを買おうという需要は下がってくるはずです。国債価格も低下するでしょう。
ところが、日本の国債の利回りは現状では、大変低く抑えられています。それは、日銀が異次元金融緩和で、市場から大量の国債を買い付けているからです。つまり、人為的に、国債の高値と低利回りが維持されています。日銀がこうした異次元金融緩和による大量買い付けをしていなければ、おそらく市場では、日本国債をあえて買う人は少ないでしょう。市場実勢では、国債は安値になり、利回りは高くなるはずです。
ただ、日銀は発行される国債を直接、政府から買い付けることができません。財政法で禁じられているからです。その代わりに、日銀は市場の金融機関から国債を買い付けます。財務省が国債を発行すると、それはまず、市場の金融機関が買うことになっています。金融機関は、通常なら、民間企業の合理性に従って国債を購入するはずですから、世界でも突出した政府累積債務を抱える日本政府の国債に対しては、慎重にならざるを得ません。それは国債購入価格を下振れさせる誘引...