●もっと本格的に人的資源と自然資源を活用すべきだ
これまでは分配の話でした。最後に、パイを増やすためには何が可能なのかということについて、お話しします。パイを増やすには、日本経済をイノベーションして、活力を増やす以外にありません。アベノミクスの成長戦略は、少なく見ても何十項目があり、多く分ければ2,000や3,000の項目がある、立派な政策パッケージです。成長戦略は2、3年で結果が出るようなものではなく、たいてい10年ほどは様子を見る必要があります。
ここでは、アベノミクスの成長戦略では捉えきれていない側面を指摘しましょう。日本は、もっと本格的に人的資源と自然資源を活用するべきなのです。
●日本の企業は、まだバブル期の後遺症を引きずっている
その前段階として、最近の日本経済がさまざまな面で著しい活力低下に陥っているということを、認識しなければいけません。とりわけその原因は、企業行動の変化です。日本の企業行動には、積極姿勢が本当に欠けています。守りの姿勢になっていて、投資が低迷しているのです。日本には潜在的な投資可能性がたくさんあるにもかかわらず、それを積極的に発掘しようとする試みが不足しています。その代わりに、社内留保が蓄積する一方です。
確かに、バブルの崩壊後、バランスシート不況を乗り切るべく、企業活動を縮小し、借金返済に全力を注いできたということは理解できます。しかし、その時代はもう終わりました。終わってすでに20年もたとうとするのに、まだバブル期の後遺症を引きずっているのです。
●起業家精神を持った人が、企業に入ってこなくなった
実際、社内留保は今やGDPに匹敵する規模です。それほど社内留保して、一体何に使うというのでしょうか。経営者の消極姿勢が目立ちます。非常に保守的になってきているのです。これはデフレ時代の後遺症だけでは説明がつきません。
しかも、経営者層がどんどん高齢化しています。もちろん、高齢だから悪いというわけではなく、問題は精神です。どうも、高度成長時代の成功体験が残像として残っているようなのです。しかし、高度成長時代は40年前に終わりました。残像にすがるのはやめてもらいたい。
アントレプレナーシップ、起業家精神も消えてしまったように思われます。松下幸之助氏や本田宗一郎氏は、起業家精神をもって、日本をここまでに引き上げてくれました。今では、そういう人がほとんど見当たらなくなりました。孫正義氏のような若手の方が、もっと出てくることを望みます。
大企業は非常に大きな組織になれば、どうしても官僚主義になるのかもしれません。しかし、その反動として起業家精神が失われていきます。あるいは、ワイルドな起業家精神を持った人が、企業に入ってこなくなってしまいました。そうなると守りに入り、若い力を活かすことができなくなります。大組織の官僚制を乗り越えなければ、日本のパイは増えないでしょう。
●日本の企業は、異質性を許容できない体質を強めている
さらに、日本の企業は、異質性を許容できない体質をますます強めているように思います。私は対内直接投資という委員会の委員長を何年も務めてきましたが、世界的に見れば日本は特異例です。先進国や新興国と比べても、対内直接投資のGDP比が一桁少ないのです。直接投資とは、工場建設や営業といった物的投資です。金融の投資ではないことに注意してください。
1990年代半ばから2010年までの、失われた20年間に、対内直接投資残高のGDP比は、約0.2パーセントから2パーセントに増えただけです。イギリスは約20パーセントから55パーセントに増えました。ドイツは約8パーセントから15パーセントに増えています。アメリカは約20パーセント前後、中国ですら約10~15パーセントの範囲内にあるのです。韓国も、約2パーセントから10パーセントに増えました。
さらに、国際収支についても日本は特殊です。貿易収支と所得収支を合わせた総合収支、いわゆる所得収支は、日本は失われた20年にものすごく増えました。約1パーセント前後だったのが約4パーセント近くに増えています。アメリカはずっと約1パーセント前後です。ドイツも約1~2パーセント、イギリスは約0.5~2パーセントです。つまり、主だった先進国は所得収支があまり増えていないのです。
日本の所得収支が着実に増えている理由は、日本企業が海外に出て企業を買収しているためです。しかし反対に言えば、これは日本経済の中に外国企業が入りこめていないということを意味します。外国企業にサービス料を払っていないからこそ、所得収支が増えているのです。
しかし、外国企業という異質な存在を入れることは実は重要です。それによって資本や技術、経営、人材を受け入れていき、異質なものから刺激を受けることができる...