●太平洋戦争直後の政府債務残高よりも、現在の方がはるかに高い
破綻に向かっている、日本経済の実情を直視することから始めましょう。いきなり深刻なデータを見ていただきます。現在の日本の政府債務残高のGDP比は、およそ229.6パーセントです。公的債務には色々な定義があり、これは少なめの数字になっています。これから皆さんと一緒に考えていく一般政府総債務は、およそ242パーセントあります。いずれにしても、大変高いところへ来ているわけです。
1945年、太平洋戦争直後のGDP比での政府債務よりも、現在の方がはるかに高くなっています。当時は焼け野原で、統計がしっかりしておらず、およそ205パーセント程度だったといわれています。ところが今や、およそ242パーセントにまで膨れ上がってきました。
戦前の時期を見れば、戦争するごとに債務残高GDP比が上がっているのが分かります。戦争のたびに、戦費調達で政府債務が増えるからです。日露戦争でどんと増えていますが、やはり一番大きかったのは太平洋戦争です。ここで急激に増えてしまいました。戦費の大半は、当然、国民から調達したものです。
敗戦後の日本は、米軍の徹底的な爆撃のために、本土が完膚なきまでに破壊された状態でした。その状態の政府債務残高を上回る、今日の政府債務の大きさに注目する必要があります。
●一般政府総債務は1,296兆円、GDP比の243.7パーセント
現在の日本経済は、世界第3位のGDPを誇っています。その分母に対して、政府債務残高が242パーセントにも及んでいるのです。この大きさは、大変深刻です。それだけの負債の返却はかなり困難ですし、市場が返済困難と判断すれば、公債価格は大きく下落するでしょう。しかも、そのリスクは極めて高いことが示唆されています。
どのぐらいの債務なのか、その実態について、数字を実際に見てみると、2017年10月現在、政府が掌握している最新の数字は、2015年度末のものです。一般政府総債務は、1,296兆円あります。これは531兆円のGDPに対して、243.7パーセントに当たります。
実は公的債務といっても、いろんな定義があります。主なものを挙げても3つあります。第1に一般政府総債務で、1,296兆円です。その内訳は、国債が850兆円、地方債務が222兆円、国庫短期証券が120兆円、借入金等が77兆円となっています。第2に、国と地方の長期債務残高で、1,093兆円です。第3に、国債および借入金現在高があり、1,224兆円です。こうした政府債務は場面ごとに使い分けられているのですが、今回のシリーズでは、一般政府総債務1,296兆円に着目しましょう。
●1990年代、日本は世界最優等生だった
財政赤字を国際的に比較してみましょう。グラフの太い赤線で示されているのが、日本です。近年では、ギリシャよりは多少良いにせよ、主要国の中で日本がほぼ最低です。ところが、1990年を見れば、日本は世界最優等生でした。先進国はみんなマイナスですが、日本は2パーセント近い財政黒字だったのです。
次に、GDP比の債務残高についても国際比較してみます。1995年の段階では、日本はやはり世界の最優等生でした。ところが、それから10年もしないうちに最劣等生になり、人類史上最悪といってもいい状況になってしまったのです。あれほど優秀だった日本が、どうして階段を転げ落ちるように、こんな状況になってしまったのでしょうか。
ちなみに、EUが結成される時にマーストリヒト条約が結ばれましたが、EUに加盟するための基本条件は、財政赤字がGDPの3パーセント以内、政府債務残高のGDP比は60パーセント以内でした。これを満たさない国はEUに入れないという条約だったのですが、ほとんどの国が満たしていません。ギリシャにいたっては全く満たしていません。それと比べて、日本はこの条件をはるかに満たして余りがあるほどの好成績でした。それが10年もしないうちに、世界最悪の赤字国になってしまったのです。
●社会保障でワニの口が広がれば、財政でもワニの口が広がる
最大の原因は、バブル崩壊後の1990年代後半から続いた、失われた20年といわれる長期デフレです。経済低迷の時代には、デフレが続き、賃金が上昇しません。社会保険料は賃金に連動しているため、賃金が上昇しないと、社会保障の拠出金も伸びません。しかも不運なことに、この時期は、高齢化が世界最速で進んだ時期でもありました。医療費、介護費、年金は増える一方です。社会保障会計の給付が増える一方で、拠出が増えないという事態に陥ったのです。
給付額と拠出額の差額の拡大は、ワニの口と呼ばれています。実際に見てみましょう。1990年代後半から、保険料収入が全く伸びていない一方、給付はどんどん伸びていくのが分かります。
しかも、社会保障でワニの口が広がれば、財政でもワニの口が広がっていき...