●先進諸国は支給開始年齢を67、8歳に引き上げている
年金改革の第3の論点は、支給開始年齢の引き上げです。現在、日本では支給開始年齢を65歳に、先進諸国は67、8歳に引き上げようとしています。イギリスでは、2024年から46年とすごく長い期間にかけて、68歳になる予定です。フランスは2018年までに67歳、ドイツは2029年までに67歳、アメリカは2027年までに67歳、デンマークは69歳ということを検討中です。それに対して、日本では2025年に65歳になる予定であり、先進諸国に比べてかなり出遅れています。
支給開始年齢の引き上げは、受給者が大反対する改革です。そこで、もうすぐ退職する世代が反対しないように、改革法案が通っても、実施までに10年ぐらい間を空けるのが普通です。例えば、アメリカでは、65~67歳に引き上げる際に、決定から実施まで20年もかけることにしています。退職年齢層の人を対象外にするようにしないと、彼らの強烈な反対で頓挫するのです。イギリスでも、引き上げるのに17年かけています。
日本では、定額部分と報酬比例分を合わせた年金受給年齢が65歳に完全に引き上げられるのが、2025年です。今後、67、8歳に引き上げるための議論が必要になるでしょう。財政検証は5年ごとに行われますが、次回は2019年です。この機会を逃すべきではないでしょう。高齢者の雇用機会を増やすという構造改革を一方で強力に進めながら、年金制度の長期的な持続性確保のために、できる限り早く、さらなる支給年齢の引き上げに着手すべきです。2019年までに世論を醸成しておいて、一気に取り組む必要があります。それでも実現するのは20~30年先になるでしょうが、とにかく進めるべきだと思います。
●賦課方式は世代間の収支に、非常に大きな格差を発生させる
第4の論点は、積立方式への移行です。これは根本的な改革になるでしょう。高齢化にともなって社会保障給付が増加していますが、事態を悪化させている最大の制度的な欠陥は、賦課方式です。
高齢化の過程で、受給世代の人口が増えていきますが、社会保障を負担する現役勤労世代の負担能力には限界があり、また、現役世代の人口も縮小しています。不足分は国債発行によって賄うことになっているのですが、これはまだ生まれてもいない世代に負担を賦課することに他なりません。しかしこれは、社会保障制度に関わる世代間の収支に、非常に大きな格差を発生させます。とめどなく拡大する悪循環に入り込んでしまうのです。
ボストン大学の財政学者であるローレンス・コトリコフ教授らは、人々が生涯で受け取る所得や社会保障給付と、生涯で負担する税や社会拠出保障の収支を、長期にわたる経済成長や利子率、その他の経済変数を前提として、世代別に推計するモデルを開発しました。世代別の生涯純所得を推計する、「世代会計」という方法論です。一定の社会保障や税制のもとで、マクロ経済の長期の変数を代入すれば、世代別にどのような格差が生じるか、推計することができるのです。
コトリコフ教授らの方法論にしたがって、日本でも多くの推計が行われてきました。現在の給付金の受給世代と若年層の間には、生涯収支として約数千万円、場合によっては1億円にも及ぶ格差が存在しているということが、多くの研究で明らかになっています。今後、さらに高齢化が加速して社会保障拠出が増大する一方、現役の稼得世代の数は減っていきます。したがって、社会保障制度の将来にわたる潜在負債を考慮すると、世代間格差はさらに拡大していくでしょう。
潜在負債をも考慮した巨大な格差は、必ずしも財政危機や財政破綻のトリガーになるわけではありません。しかし、これほど大きな格差が世代間に存在するということは、社会の分配構造として正当化することはできないでしょう。これが人々の将来に不安の影を投げ掛けていることは、疑いのない事実です。
●積立方式に移行する過程で二重負担が発生する
こうした制度的欠陥を根本的に是正する、最も直接的な方法は、現行の賦課方式から本来の積立方式に戻すことです。日本でも諸外国でも年金制度の始まりは、積立方式でした。自分が積み立てたものが、将来利子がついて返ってくるということが、年金だったわけです。ところが、経済成長にともなって生活費が上がれば、過去に積み立てたものでは生活できなくなっていきました。そこで、現行世代が拠出した額で補うようになったのです。これが賦課方式です。それを元の積立方式に戻せば、この手の問題は解消するでしょう。
ただし、積立方式に移行する過程で、現役世代が自分の将来の食いぶちを積み立てると同時に、現在の受給世代の分まで支えなければならなくなります。つまり、二重負担が発生するのです。
二重負担を克服する方法を提起する研究としては、例えば、この...