●一般政府総債務が家計の金融純資産を上回るかもしれない
もう1つ気になる現象が見えてきています。それは、一般政府の債務残高総額がますます増えていって、遠からず、国民の純貯蓄総額(金融資産)を超えそうだという現象です。
次のグラフを見て下さい。これは、家計の純貯蓄と政府の総債務を比べたものです。一方はネットで、他方はグロスです。家計の中には、家のローンや保険、借金も含まれています。こうした借金分は公債を買う原資には当てられません。ですから、政府の債務と比較する際には、純貯蓄でなければいけません。他方、政府の債務はグロスで測っています。確かに、政府は資産を持っています。しかし、そこには道路や橋といった、売却できないものが含まれています。また、金融資産にしても、社会保障基金のように売ることのできないものが多くあります。そこで、政府の借金としては、ハードウェアも金融資産も全部含めた総債務で測っています。
ブルーの線が家計の純貯蓄(金融純資産)です。高齢化が進むにつれて、伸びが止まってきています。他方、オレンジ色の点線は一般政府総債務です。後に説明しますが、こちらは高齢化の進展に伴って、徐々に上がってきています。そして、2010年頃を過ぎると、加速度的に上昇してきます。そして、2020年、25年ごろには、一般政府総債務が家計の金融純資産を上回っていくと予想されています。
そうなると、政府が新たに国債を発行しても、それを買う原資がなくなってしまうのです。金融機関が国債を買うわけですが、その原資はもともと国民の貯蓄です。金融機関がそれを購買に使っているだけです。したがって、国民の純貯蓄が政府総債務を下回れば、新たに国債を買うゆとりがなくなるということになります。こうした事態が、あと10年から15年の間に訪れるでしょう。これは非常に恐ろしいことです。
●高齢化がディスセービングを招く
高齢化が進めば、家計の貯蓄率が下がるということは、このグラフを見ればすぐ分かります。1997年頃までは、日本の貯蓄率は10パーセントを超えていました。しかし今や、ずっと落ちてきて、0になったり割り込んだりしています。高齢化が、ディスセービング(貯蓄掘り崩し)を招くからです。働けるときには、どんどん稼いで貯蓄しますが、年を取って働けなくなると、預金を下ろして使わざるを得ません。貯蓄率はマイナスになります。
さらに、貯蓄率が減少してきた原因として、消費者金融やクレジットカードが発達してきたことも考えられます。貯蓄する必要がなくなってきたと感じられているからです。また、過去20年ほど雇用が不安定で、所得も非常に不安定な人が増えてきたということもあるでしょう。これらが総合的に組み合わさって、貯蓄率が減少してきました。
こうして、貯蓄がますます伸びなくなっている一方で、高齢化が進み、政府の総債務がどんどん増えていくという、逆転現象が起きているのです。しかし、そうなると、政府は新規に国債を発行できず、予算編成にも支障が出かねません。
●市場の実態とはかけ離れた日銀相場が形成されている
どの国の経済も世界経済の中で活動しています。日本国内で国債を新たに買う原資が不足した場合、海外の投資家に買ってもらうことは当然できます。海外との貿易や投資などの取引の結果を表す指標は、経常収支と呼ばれます。国際収支は貿易収支と所得収支から成り立っています。貿易収支はもののサービスの売買、所得収支は海外投資の収支を表します。これらを足した経常収支が黒字であれば、国内の原資が不足しても、海外の資金で公債を購入してもらうことは可能です。
ただし、国内で消化されていたのと同じ条件で、今後も国債が消化されるかどうかは、確実ではありません。というのも、これまでのところ日本の経常収支は黒字ですが、これが赤字になれば、相当条件が変わり得るからです。
現在、国債価格が下がる危険があるといわれながらも、実際には日本国債の値段は高値に張り付いています。利回りは0近辺という非常に低い水準です。その最大の理由は、この数年、日銀がこれまで発行された国債を、いわゆる「異次元金融緩和」のモットーの下、大量に買い付けているためです。つまり、市場の実勢とはかなりかけ離れた日銀相場が形成されているのです。
ところが、外国の投資家に日本国債を買ってもらう場合、外国の投資家には日銀相場はあまり関係がありません。借金返済能力に疑念が持たれる国債だということになると、どうしても日銀相場と異なった実勢の相場が求められることになるでしょう。したがって、日本の経常収支が赤字になってしまえば、かなり大変な事態になることが予測されます。