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ゆとりがなく、同調圧力が強い社会が、家畜をつくる

海外M&A成功の条件(5)なぜ戦略性が育たないのか

情報・テキスト
無駄な仕事で疲れ果て、多忙で、まったく余裕がないなかで働いている日本人。だからこそ、野獣が育まれないし、戦略性も育たない。しかも、同調圧力が高いため、人と違うことをすることを恐れ、皆が「家畜」になっていく。これではいけない。ゆとりを持ち、人と違うことを楽しむことが不可欠である。そして、自分独自の「勝ち上がりの方程式」を追求すべきではないか。(全5話中第5話)
※インタビュアー:神藏孝之(テンミニッツTV論説主幹)
時間:18:17
収録日:2019/07/02
追加日:2019/09/17
キーワード:
≪全文≫

●考える余裕がなさすぎる


神藏 よく考えると、渋沢栄一もそうですね。もともと、たいへんな豪農の家に生まれて、かつ藍を扱っていたのが決定的です。マーケットと直結していますから。しかも大量生産するため、肥料にするイワシの配合率などを考える。ある種の科学です。さらに大量生産するには人も雇わなければいけない。だから農民であったけれど、最初からマーケットにも対峙していたし、大規模な経営を自ずからやっていた。

 また学校は出ていないけれど、結構、豊かな家ですから江戸から漢学者を丸ごと呼んで勉強していた。それも父親の代からやっていた。だから、なかなかの漢籍もできた。そのような人が一橋家に仕え、維新を唱え、かつその後、日本の資本主義を作っていく。先生が言われるいろいろな体験をしているから、まさに開けた目を持っていたのです。

谷口 今、現代人は多忙です。いろいろな仕事が回ってきて余裕がない中で、さらに新しい仕事が来るとなれば、いろいろ考えたりする余裕はありません。考える余裕がないことも、一つ問題だと思います。ゆとりがない。

 僕の経営史の先生で、マーク・フルーエン先生という方がおられます。アルフレッド・チャンドラーの弟子で、スタンフォードで博士論文を書かれ、慶應義塾大学にも来られたのですが、「僕は博士号を慶應で取ったようなものだ」とおっしゃっています。歴史人口学の速水融先生にお世話になったからと。それで速水先生に会いたいということで、もう九十歳ぐらいになられますが、この前、慶應大学病院で検査入院されているときに会われたそうで、話をいろいろしてくれました。面白かったのは速水先生は非常に恵まれた家庭の育ちで、親戚に経済学者など、いろいろな方がおられるのです。速水先生自身、大学で勉強するのも大事なのだけれども、1年間何もしないで音楽をずっと聴いていた年もあったそうです。今こんなことを言うと怒られるかもしれませんが、こうしたゆとりがないのも困ったことのように思います。

神藏 これも無駄に競争しているからです。まだ旧制高校があった時代は、そもそも進学する人が限られているから、あまり無駄な受験勉強をする必要がありませんでした。ひたすら哲学書を読んだり、歴史書を読んだりできた。あの間に、けっこう人間の幅が広がったと思うのです。その時間を、今は奪われてしまっている。

谷口 疲れているのです、無駄な仕事で。スクラップ・アンド・ビルドで、新しい企業を買って事業を整理して売却する。買ったら売ればいいのですが、売らないケースが多いのです。それが目利きで、戦略です。それこそネスレも、ジャック・ウェルチのときのGEもそうで、やはり買ってきたら売らなければいけない。自分の戦略に従ってどうするかを、やる。

 ネスレの場合、その事業が自社の戦略に合っているかを見極めるシステムまで開発しているそうです。日本はそれができていない。この仕事をやるべきか、やらないべきかという判断をしなければいけないのに、それを判断する余裕すら今の人たちは奪われているのかもしれません。

神藏 そうしたコンセプトやロジックの普遍化は、いちばん弱いところですね。しかも「切る」という作業は、ものすごい決断力がいるし、返り血も浴びますから、いちばん苦手なところなのです。

谷口 今、何を変えるべきかを見極めて、そのうえで実際に捨てるものは捨てる。それをやらないと無理です。無理なまま、ずっとやってきたのが今の日本社会なのかな、と思います。

神蔵 ある種のビジョンと哲学を持った人を、せめて育てられないまでも、潰さないようにするには、ある程度、時間の余裕が必要です。

谷口 そうでなくても、小さい頃からサッカーだ、水泳だ、塾だと忙しいわけです。「好きなことをやらせればいいじゃないか」という話です。

神藏 親は「よかれ」と思ってあれこれやらせるけれど、それが次の時代に全然合わなかったり、余裕を奪ったり、かえって余計なことをしている。それをやめるだけでも、ずいぶん違ってきますよね。ボーッとしている時間がいるのですね。

谷口 もっと自分に関心を向けるとか。親が子供と仲良くする時間も大切なのかもしれませんが、親子で友達みたいにベタベタするのでなく、もっと自分の時間を楽しむ必要があります。そうすれば余裕も出てきます。

神藏 自分が楽しんでいれば、あまり人のことも気になりません。自分が忙しければ、あれこれやる気になれません。

谷口 人と違うことを楽しむのも大事です。そうでなくとも日本社会は、同調圧力が強いですから。「何々ちゃんがやっているから、あなたもこうしなさい」みたいな。そういう形で育てられるから、周りを見ることを覚えてしまうのです。「あなたは見ないでいいのよ」という話です。

神藏 ユダヤ...
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